今月もこんにちは! 今回はどの本も問答無用の鬼畜悪役が登場!

*今月のまさかの続編本*
マイケル・マン&メグ・ガーディナー『ヒート2』(熊谷千寿訳/ハーパーBOOKS)


先日の書評七福神のコーナーで霜月さんが書かれていたように、自分もやはり、え? なんで今ごろ? と最初は疑問に思っていたのですが、ページが進むにつれ、うおー、たしかにこれは“読むマイケル・マン”ではないか! と興奮しながら769ページがっつり一気に読んでしまいました。1995年の映画『ヒート』のクライマックスから始まり、強奪チームの過去の犯罪と生き残ったあの人たちのその後が、猛烈な熱量で描かれます。とくに銃撃戦シーンの緊迫感は圧巻。映画からして警官VS犯罪者=善対悪などという単純な物語ではないのですが、本書では映画の最悪キャラを極限まで煮詰めたような凶悪犯罪者が登場。ここまで酷い相手にはたしかに毒をもって毒を制すしかないだろうと思わざるを得ない、ど迫力の犯罪小説です。メグ・ガーディナーのオリジナルもまた読みたいなあ。

*今月の新シリーズ本*
アラン・パークス『血塗られた一月』(吉野弘人訳/ハヤカワ文庫)


舞台は1973年。グラスゴー市警の刑事ハリー・マッコイは、服役中の囚人から呼び出され刑務所を訪れると、明日、ローナという名の少女が殺されると言われます。なんとか少女の身元を突き止めたにもかかわらず、彼女はマッコイの眼前で撃ち殺され、犯人もその場で自殺。囚人と被害者の関係は? 心身ともに傷だらけになりながらも捜査を進めるマッコイの前に立ち塞がる歪んだ権力に、彼は太刀打ちできるのでしょうか。エイドリアン・マッキンティのショーン・ダフィやジョセフ・ノックスのエイダン・ウェイツに続く、汚れたヒーローのシリーズ第一弾。前述の2シリーズ同様、服装やカルチャーなどに当時の雰囲気が感じられるところも魅力の一つです。ドラマ『刑事ジョン・ルーサー』のファンにもオススメ!

*今月のイチオシ本*
C・J・ボックス『熱砂の果て』(野口百合子訳/創元推理文庫)


みんな大好き猟区管理官ジョーと鷹匠ネイトが大自然をバックに悪に立ち向かうシリーズ最新刊! 人里離れて暮らすネイトの元にやってきた謎の男たちは、影の政府の一部として祖国を守っている〈ウルヴァリンズ〉の一員であると名乗り、ネイトが断れない条件で無理やり彼をテロ阻止の任務につかせます。チーム名は映画『若き勇者たち』にあやかった……って、いやそれかなりヤバいんですけど!(怖)ネイト逃げてえええ!! 一方、グリズリーの被害を調べていたジョーは、引退間近の知事から重大な任務を命じられます。毎回多彩な読みどころが盛りだくさんのこのシリーズ、今回もシリーズ読者の期待を裏切りません! 大自然と野生動物の脅威、国家レベルの陰謀、ジョーの真面目な正義感とネイトの大胆不敵さ、そして壮大なスケールのアクションシーン! 本書からいきなり読み始めても大丈夫! シリーズファンの人は、ジョーのピックアップがどうなるかも気になるところ。じめじめした季節をふっとばしてくれるような爽快感をぜひ味わってみてください! 

*今月の番外編本*
スティーヴン・キング『異能機関』(白石朗訳/文藝春秋)


『キャリー』でデビューし、来年には作家生活50周年を迎えるキング御大の邦訳最新作は、上巻帯にあるようにまさしく王道回帰。特別な能力を持つ子どもたちVS邪悪な組織の物語は、一刻も早く続きを読まずにはいられない、手に汗握る冒険スリラーです。12歳の天才少年ルークは一流大学への進学を心待ちにしていた矢先、謎の男女に拉致され、どこかわからない施設の一室で目覚めます。〈研究所〉と呼ばれるその場所には他にも少年少女たちが住んでおり、施設の大人たちは彼らを恐怖と暴力で支配し、繰り返される不審な検査は子どもたちの気力と希望をはぎとっていたのです。仲間ができたルークは自分と彼らのために脱走計画を練りはじめます。Netflixの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』にただならぬキングオマージュとリスペクトを感じていた人も多いと思いますが、本書はまさにそれに対する御大のレスポンスではないかと。つぎつぎと襲いかかる苦難を乗り越え、どんなに過酷な状況に置かれても負けない子どもたちの勇気と団結に力づけられる作品です。ちょっとジャック・リーチャー風(そこまで全方向に万能ではないけど)のティムや、小さな町の住民たちがどう関わってくるかも読みどころのひとつの本書、エンタメの帝王の匠の技をご堪能ください。

*今月の新作映画*
『Pearl パール』〔7月7日(金)公開 〕

え!? そうだったのか!! とびっくりしたホラー『X エックス』に始まる三部作の第二弾『Pearl パール』は、前作の60年前となる1918年が舞台。若くして結婚したパールは、戦地にいる夫を待ち実家の農家で両親と暮らしています。厳格な母の冷たい仕打ちに耐えながら父親の介護をするパールの夢は、いつか映画スターになること。ある日町で映写技師と知り合ってその思いがさらに強くなったところ、まさかの夢を叶えるチャンスが突然やってきたのです。ところがそれはパールの狂気を目覚めさせる引き金になってしまい……。





なかなかに不謹慎でエキセントリックな内容なので万人向けという作品ではないのですが、『オズの魔法使』『悪い種子』も大好き! という人には積極的に勧めたい一作です<ニッチすぎる! それはともかく随所がいろいろと凝っていて、なかでも色彩がすごい! テクニカラーの画面で繰り広げられる悪夢は、怖いのを通りこすとだんだんブラックな笑いがこみあげてきます。ちなみにホラーヴィジュアル耐性としては『CSI:科学捜査班』を食事しながら観られる人なら大丈夫かと。そしてなんといっても主演のミア・ゴスがお見事! バルテュスの絵に出てきそうなルックスの彼女の表情にあらわれる無垢な残忍さは観客を虜にします。自分が今最も応援している三大若手俳優(ミア・ゴス、フローレンス・ピュー、アニャ・テイラー・ジョイ)の一人なので、最終作『MaXXXine(原題)も期待して待ちたいと思います!





◆タイトル◆
『Pearl パール』
7 月7 日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、
  マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.  
公式HPhappinet-phantom.com/pearl/
公式twitter@xmovie_jp
原題:Pearl|2022年|アメリカ映画|上映時間:102分|R15+

 
■7月7日(金)公開 『Pearl パール』予告編■

 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho









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