みなさま、お初にお目にかかります。この度、ひょんなことからお声がけいただきノコノコやってまいりました、北海道在住、「韓国(ジャンル)小説愛好家ときどき翻訳者」の藤原(フジハラ)と申します。これから韓国のミステリー書籍、ミステリー事情、ジャンル小説情報など、いろいろご紹介できればと思っています。


 いきなり宣伝じみてしまいますが、先日、韓国発ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(以下『新感染』)のノベライズ版の翻訳を担当させていただきました。手短に内容を紹介いたしますと、ゾンビ映画に分類される『新感染』、実は心を揺さぶるヒューマンドラマとなっています。
 走る列車という閉鎖空間の中でゾンビ(作中では「感染者」という用語が使われています)が出現、噛まれてゾンビ化してしまう人々、噛まれまいと必死で逃げまどう人々、停車駅で下車を試みるも、列車の外にもゾンビ出現、さあ、どうする……という追い詰められた状況の中、はたして人はどこまで人間らしさを失わずにいられるのか、与えられた使命に忠実でいられるのか、どれだけ人に優しくなれるのか、強くなれるのか。家族のあり方、人と人とのあり方、そんなことを深く考えさせられる作品です。ノベライズ版では、映画で触れられなかった、登場人物の生い立ちや家族関係なども語られています。機会がありましたら、映像、小説、お好みのほうでお楽しみください(ちなみに個人的なおすすめは、映像→小説→映像)。

 さて『新感染』は映画からのノベライズでしたが、韓国ではこの秋から冬にかけ、小説を原作とした数々の映画が注目を集めています。その中から今回は、ミステリー、サスペンス系の作品をいくつかご紹介したいと思います。


 まず9月6日の公開後、わずか12日で観客動員数200万人を突破、原作小説が再びベストセラーランキング1位に上りつめるという人気ぶりを見せている『殺人者の記憶法』(原作:キム・ヨンハ)。アルツハイマーを患う「元」連続殺人犯が、「現」連続殺人犯の標的となった我が子を守るため、再び殺人を企てるというストーリー。こちらは10月下旬に邦訳版がクオンより発売映画は来年1月27日より全国各地で公開予定となっています。


次に、韓国で来年の公開が待たれる『七年の夜』(原作:チョン・ユジョン)。鬱蒼とした森に囲まれたダム湖に隣接する村で、ひき逃げにより娘を失った男が復讐を企てるサスペンスです。終始漂う重たい空気、息の詰まる攻防戦、じわじわと迫りくる緊迫感。読んでいるだけで押しつぶされそうになる作品ですが、映画では日本でも人気の俳優チャン・ドンゴンが復讐男に扮します。こちらも書肆侃侃房から11月、邦訳出版予定となっています。


 それから私のイチオシ……ながら原作の邦訳話は今のところないと思われる『終了しました』(原作:パク・ハイク:画像上)。『犠牲復活者』というタイトルで10月12日、韓国で封切りとなった本作品は、これまた日本でも有名なキム・レウォンが主演。「殺人事件で命を落とした被害者が、恨みを晴らすためによみがえる」という現象(RVP)が世界各地で発生し、よみがえった被害者(RV)は加害者への復讐を終えると再び消滅します。ところがキム・レウォン扮するジノンの母親(RV)は、なぜか加害者ではなく、息子ジノンへ殺意を抱いており、どんどん凶暴になっていきます。なぜ自分の目の前で殺害された母親が、加害者ではなく自分に復讐心を抱いているのか。苦悩するジノンの前に、母親を狙う集団が現れ、自分に対する殺意むき出しの母親の身をなんとか守り抜こうと必死になるジノン……。
 あらかじめ申し上げますと、これは「なぜ? どうなってるの?」と理詰めで鑑賞してはいけない作品です! 絶え間なく続く緊張感、追い詰められ感を味わうサスペンスです! ラストシーンの種明かしで「え?」と脱力しないとも限りませんが、小説に限って申し上げますと、脱力感と同時に背筋の凍る余韻が、そしてある意味、予想以上の恐怖が用意されています(映画は視聴していないので、どのような結末になっているのか不明)。

 ここに紹介した3つの作品は、私が所属するK-BOOK振興会で発行している『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選(ときに30選)』でも紹介しており、『終了しました』コチラでご覧になれます。ただし出版社さま向けのレジュメのため、オチまでネタバレしています。ネタバレをお望みでない方はご注意を。

 K-BOOK振興会では韓国書籍を日本の方々にもっと知っていただこうと、毎年『おすすめ50選』を制作し、ただいま第6号の発行準備中です。冒頭の自己紹介にもあります通り、私は主に「ジャンル小説」と呼ばれる、純文学の対角線上にあるジャンルを愛読しています。この「ジャンル小説」、平たく言うと推理小説、SF小説、時代小説など「ジャンル分けできる小説」を指すのですが、私はその中でも特に推理、ファンタジー、SFなどを愛読、『おすすめ50選』におすすめしています。
 ……が、私のイチオシは残念ながらなかなか邦訳出版に繋がらず……。正直、韓国のミステリー、推理小説出版市場は日本や欧米の作品が主流をなしており、韓国の推理小説(家)は苦戦を強いられているのが現状です。そもそもこれまで「純文学を読んでこそ読書」という風潮が強く、ジャンル小説は軽視されていた韓国。ここにきてやっと、作家、書店、出版関係者やジャンル小説ファンの地道な努力により、ミステリー書籍専門書店が出現したり、ミステリー専門雑誌『ミステリア』が刊行されたり、SF、ミステリーの児童書が相次いで出版されるなど、徐々に韓国社会におけるジャンル小説、ミステリーの地位が向上してきているように思います。出版大手「文学トンネ」のミステリー専門レーベル「エリクシール」から隔月発行されている雑誌『ミステリア』は今年、創刊2周年を迎えました。毎号、国内外の短編小説が掲載されているほか、ミステリー小説の新刊紹介はもちろん、ミステリー映画の紹介や、過去に発生した殺人事件、未解決事件に関する考察、犯罪学についてなど、幅広い話題満載で読み応えたっぷりです。今年7月に発売された第13号では、韓国ミステリーの舞台としてもたびたび登場する京城(現ソウル)に関する「1930年代の京城、犯罪都市」というかなりのページ数の特集が組まれ……ていますが悲しいことにまだ読めていません……。これまでも京城で発生した犯罪、怪事件に関する書籍はたびたび出版されてきましたが、いまだ発掘されていない事実や謎が多いとされるセピア色のモダンな都市、京城。次回にでも、こちらでちらりとご紹介できるかと思います。

『新感染』もそうですが、やはりお隣の国だけあって、韓国の作品には「東洋共通」の泣きドコロ、泣かせドコロのツボがある気がします。ミステリーのみならず、史実とフィクションを融合させたファクション、韓国固有の「鬼神」が出てくるホラーや、もちろんゾンビもの、ちょいグロミステリー×ファンタジーなど、ゾッとしてグッとくる作品を少しずつご紹介したいと思っておりますので(ゾンビものなのに泣ける作品は『新感染』だけではない!)、皆さまぜひぜひ韓国ジャンル小説にもちょろりと関心をもっていただければ幸いです。

【補足情報】

 『おすすめ50選』に関しましては現在、第1~2号は在庫なし、第3~5号は入手可能となっております。第5号のみコチラから購入可能、第3~4号の購入、その他に関しましてはお手数ですが、book@k-bungaku.com まで、お問い合わせください。

藤原 友代(ふじはら ともよ)
 北海道在住、韓国(ジャンル)小説愛好家ときどき翻訳者。
 児童書やドラマの原作本、映画のノベライズ本、社会学関係の書籍など、いろいろなジャンルの翻訳をしています。
 ウギャ――――!!ゲローーーー!!という小説が三度のメシより好きなのですが、ひたすら残虐!ただ残忍!!というのは苦手です。
 3匹の人間の子どもと百匹ほどのメダカを飼育中。






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