コラム末尾に大事なお知らせがあります。(編集部)


 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 名探偵の謎解きに、血と暴力にまみれたノワール、モジュラータイプの警察小説にサイコサスペンス……などなど、ご存じの通りいろんなタイプのミステリがありますが、大掛かりな強奪や詐欺を扱ったいわゆるケイパーものって、たまにすごく読みたくなりません?
 
 というわけで今回は、軽妙でコミカルな痛快犯罪小説、ドナルド・E・ウェストレイク『ホット・ロック』(平井イサク訳/角川文庫)をご紹介します。4月に〈必読!ミステリー塾!〉で取り上げられたばかりで恐縮ですが、これ本当に大好きな作品で、萌え読み案件としてもぜひご推奨したく、どうかお許しのほど。文中で加藤さんと畠山さんは、ドートマンダー役がロバート・レッドフォードという映画のキャスティングに大きな疑問符を付けておられますが、当方は小学生の時にテレビで映画版を観てあまりの面白さに激しく興奮。その後、もっと面白い原作を読んだところ、「ドートマンダーって本当はイケメンじゃないんだ、そっか……」とがっかりしました……というのはで、「だよねー、レッドフォードのルックスじゃすぐ覚えられちゃって、パクられた時に面通しですぐバレちゃうじゃん」と子供のくせに冷静に納得。だって黒ずくめで忍び込んだ時、金髪が激しく目立ってたんですよ! ちなみに短編集『泥棒が1ダース』(木村二郎訳/ハヤカワ文庫)の序文「ドートマンダーとわたし」でウェストレイクは、「ドートマンダーがロバート・レッドフォードだと知って驚いたよ」と書いています。さもありなん。

 映画の件はひとまず脇においておき、これから読まれるという幸せな方のために簡単なあらすじをば。おつとめを終えて出所してきたジョン・ドートマンダー37歳。天才的(?)犯罪プランナーの彼に、相棒のケルプが持ってきた仕事とは、アフリカの小国タラブウォの大使の依頼で、隣国アキンジと所有権を争っている国宝のバラボモ・エメラルドを盗み出すこと。獲物は頑丈な防弾ガラスで覆われ、常に4人もの警備員に守られており、さしものドートマンダーもそう簡単にはことが運ばないとわかり、本腰を入れて慎重に計画を練る。
 
 ところでこの作品、しょっぱなからいきなり萌えどころが! それは何かというと出所のお出迎え!!!
 

 黒塗りの高級車の後部座席で待っている親分:「俺の代わりに長いこと苦労させたな」
 子分のチンピラ:「アニキ、おつとめご苦労さんでした!」
 友人やかつてのムショ仲間:「よお、意外に元気そうだな」

 
 ――などといろんな出迎えシチュエーションを妄想して心拍数が上がりそうですが(笑)、よるべないムショ帰りが何年ぶりかに愛情を示されて、ぎこちなくはにかんだりするシーンっていいですよねえ(うっとり)。『ブルース・ブラザース』なんか最高ですよ!!! 本書では刑務所から出てきたドートマンダーを見つけたケルプが、自由になった喜びを満喫する相棒の邪魔をしないようにちょっと待つのです。ほんとはすぐに駆けつけたいくせに!<? まあそうやって気をつかいすぎたためにエラい事態になることに。
 
 仕事を引き受けたドートマンダーは、運転担当、なんでも屋、金庫破りの腕利きメンバーを揃えてチームを組みます。この人選のくだりがもう可笑しいのなんの。ちなみに映画版ではケルプが錠前屋を営んでいる設定になっていて、金庫破りも担当し、しかもドートマンダーの妹と結婚して子供もいます。ケルプの無茶なお願いとか、さまざまな失敗をしても見捨てられないのは、義理の兄弟だからというニュアンスが感じられますが、これはやっぱり“ケルプはドートマンダーのことを尊敬していて、おまけに大好きで心底信用しているから”というもともとの設定の方が断然良いと思うんですが!
 
 大胆不敵な計画で、見事にエメラルドを盗み出したドートマンダーたちですが、成功を目前にして思わぬトラブルが発生し、手に入れたはずの獲物が消えてしまいます。この後は、エメラルド奪還ミッションのハードルがどんどん上がっていき、それに伴い、犯行の手口の規模も恐ろしいほどデカくなっていくという、なんともたまらない展開が待ち受けています。どこか抜けた愛すべきキャラクターたちに、思わず吹き出してしまう会話、そしてあっと驚く犯罪計画。50年近くも前に書かれたとは思えないほど、新鮮な面白さが味わえることうけあいです。ちなみに映画版ではエメラルドがダイヤモンドに昇格し、ケルプの他にもキャラの設定が少々変えられていて、中でも後半に出てくるあの人物を、⚪︎⚪︎のxxにしたのは悪くないのですが、最も豪快かつありえない最後の突撃ミッションが割愛されていますし、エンディングも少々変えてありますので、もし映画版でしか『ホット・ロック』をご存じない方は、この機会にぜひ原作をお読み下さい!
 なお前述の『泥棒が1ダース』は序文を含めて文字通りドートマンダーもの11篇+ジョン・ラムジーもの1篇が読めるとっても楽しい作品集です。とりわけケルプものとして「真夏の日の夢」は必読です。ぜひ。
 
 ドートマンダーといえば、ずばぬけて頭脳明晰な犯罪者であるのと同時に、なにかとツキに見放されがちで不幸に見舞われるキャラとしても有名ですが、11月18日(土)公開のアメリカ映画『ローガン・ラッキー』は、不幸に見舞われ続ける一家が、一度限りの一攫千金を狙って驚くべき犯行に打って出る、豪華キャスト満載の痛快犯罪映画です。


 かつてハイスクールでアメフトの花形選手だったジミー(チャニング・テイタム)は、卒業前に脚を怪我して、プロ選手になる夢を断念。妻は愛する娘を連れて出て行き、今の職場からは退職を言い渡されます。しかし不運なのはジミーだけではありません。弟のクライド(アダム・ドライヴァー)はイラク戦争に派遣された途端に片腕を失い、妹のメリー(ライリー・キーオ)も片田舎のちっぽけな美容室でお年寄りの話し相手をするだけの毎日。ローガン一家の代々の不幸続きは地元でも有名でしたが、ジョーはある日、そんなジンクスを吹き飛ばし、人生を一発逆転させるような大胆不適な犯罪計画を思いつきます。


 狙うのは全米最大のモーターイベント、NASCARの売上金。レースが観戦できる億ションが瞬殺で売り切れるほどの一大イベントで、グッズや飲食物の売り上げだけでも天文学的数字という、いわばイベント界の頂点に君臨する巨大なターゲットに、貧乏底なしでしかもカタギのローガン一家だけで立ち向かえるはずはありません。そこで彼らが目をつけたのは、爆破のプロのジョー(ダニエル・クレイグ)。しかし彼は現在絶賛服役中。金も技術も人脈もないローガン一家とその一味、はたしてどうやってこの大計画を成功させるのか!? 笑ったり、ドキドキしたり、スカッとしたり、時にはほろっとしたりと、1時間59分、まったく飽きさせません! 旬のキャストはどれも超はまり役ですが、とりわけ爆破犯役のダニエル・クレイグが最高! 彼のこういう役を待ってたんですよ!! 監督は『オーシャンズ』シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ監督。全くの新人レベッカ・ブラントの初脚本に惚れ込んでの映画化だそうです。『新・黄金の七人=7X7』『タラデガ・ナイト オーバルの狼』を愛する方もそうでない方も、とにかく面白いので、ぜひごらんくださいね!
 

 

監督:スティーヴン・ソダーバーグ『オーシャンズ11』シリーズ
出演:チャニング・テイタム『マジック・マイク』 アダム・ドライヴァー『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ダニエル・クレイグ『007』シリーズ ヒラリー・スワンク『ミリオンダラー・ベイビー』ライリー・キーオ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 セバスチャン・スタン『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
映画公式サイトhttp://www.logan-lucky.jp/
公式Youtubeリンクhttps://youtu.be/A3fRSWS9HV0

提供:東北新社
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/STAR CHANNEL MOVIES
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11月18日(土) TOHOシネマズ 日劇ほかにて全国ロードショー

 
 

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho

【告知】腐萌え読書会のお知らせ
 先日サイトに告知を掲載いただいた腐萌え読書会ですが、まだ残席がございます。課題書読了であれば、どなたでも参加出来ます。過去の読書会で萌えトークを封印されていた方はもちろん、読書会未経験の方もふるってご参加下さいませ。
 
日時/11月12日(日)14:30~16:30(受付は14:00より)
場所/都内 JR高円寺駅近くの会議室
課題書/パトリシア・ハイスミス『リプリーをまねた少年』(柿沼瑛子訳/河出文庫)*今年5月に出た改訳版をご持参下さい。
 その他の詳細は、10/21に当サイトに掲載された告知文をご覧下さい。皆様のお越しをお待ちしております。















 

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