最初はどうなることかと心配したんです。「読書会終了後には二本松の提灯祭りへご案内します」を誘い文句に参加者を募集したところ、定員を大幅に超える16名(幹事役含む)の方からお申込みがありました。しかも、そのうち12名が女性ですから、まさしく「女子だらけの読書会」。なのに課題図書は、重厚、緻密、生真面目、リアリズム、地味…、「女子」が喜びそうな作品とはとても思えないF・W・クロフツ『クロイドン発12時30分』…わたしの心配もご理解いただけるかと。

さらに女子12名のうちの5名が、那波かおりさん、高橋恭美子さん、松井里弥さん、吉澤康子さん、石原未奈子さんといった翻訳家のかたがた…こりゃあ、クロフツの話するよりも、翻訳にまつわる話題あれこれをおうかがいしたくなってくるじゃありませんか、ゴシップネタ含めて。

参加メンバーのうち、翻訳家女子はちょうど5名なのでKARAと命名,対する読者女子は7名なので渡り廊下走り隊7(7人いるアイドルグループは誰なのか一生懸命検索しました)、我々男性陣は…そうそうフォーリーブスがちょうど4名だからってな調子で、福島読書会お得意の「見立て」もぴったりおさまったところで当日を迎えます。せっかくのお祭り見物があるっていうのに、夜は雨の予報で、もう気分は「にっちもさっちもどうにもブルドッグ」…

最初にデータからご報告。今回の『クロイドン』がクロフツ初体験だった方、女子12名中11名 男性は0。

創元推理文庫版を読んだ方16名中7名、ハヤカワミステリ文庫版8名、両方読んだ方(男性)が1名。

「オープニングの少女目線が楽しい、ツカミはOK」「飛行機に乗るわくわく感がよく出ている」「悲しい理由で乗ってるんだけどね」「まだ子供だから」「あの子はあとでまた登場するのかと思ったらそれっきり」「それが残念だった」「飛行機の場面はクロフツ自身が乗り物好きで、それがよくわかるシーンだと思う」「鉄道でも船でも、ホントにクロフツは嬉しそうに詳細に描写する。書いていて楽しい感じが伝わってくる」「風景描写もそう、基本的に旅好きな人」

「犯罪に手を染める主人公の気持ちがよくわかる」「共感できる」「犯人の側から描いていく倒叙ミステリーならではの面白さ」「ミステリーにありがちな動機の不自然さがない」「犯人をXXする人が出てきたのは予想通り」「あれはパターン」「火サスか土ワイか昼メロか」「テーマ曲はやっぱり岩崎宏美」「でも最後は断崖絶壁の上じゃないし」

「犯行の準備が詳しく書かれていておもしろい」「そこが読みどころ」「犯行に至る過程がとても面白くて、あとはだんだんトーンダウンしていく」

「犯人はいわゆる悪人じゃないと思う」「犯人は普通の人」「裁判でも無実になるかどうか一喜一憂」「無罪になってほしかった」「いや、あの証拠じゃあ、無罪でいいよ」「被害者は本当は別な理由で死んでいたとか、そういうどんでん返しを期待してしまった」「倒叙ミステリーであることはわかっているんだけど、ラストは違う人が犯人みたいな期待を持った」

「犯人はだんだん身勝手になっていく、最後は同情できない」「途中から性格が変わっていく感じがする」「悪の要素があったから犯行に至ったわけで、やっぱり悪人」「粘着質」「その情熱を殺人じゃなく別な方に振り向ければいいのに」「世間しらず」

参加者女子は、犯人同情派、実は悪人じゃない説のかたと、犯人ダメダメ派、性格からモノの考え方まで全否定のかた、意見が真っ二つ。とても興味深かったです、ぼくは。いえ、勉強になりましたです、はい。

「クロイドン発12時30分っていうから、てっきり鉄道だと思ったら飛行機だった」「いつ列車に乗るのかと思っていたのに、ぜんぜん乗らない」

「ぜんぜんといえばフレンチがぜんぜん活躍しない」「フレンチ警部が主人公でもっと活躍すると予想していた」「コロンボ警部みたいに犯人と対決しないのか」「今回は犯人が主人公」「活躍する場がなくて、フレンチがどんな人なのかよくわからない」「最後で説明するだけ」「いらないんじゃないの、説明」「最後の説明は読むのが苦痛なくらい」「いやいや、ミステリーとしてはあそこが一番大切、あれがあるおかげで犯行の穴がどこにあったのか、読み手が確認できるように出来ている」

他には「クロフツはリアリズムの作家と言われているが、捜査方法が現実的なのであって、犯人側の計画にはあっといわせる部分がある。作家としてはロマン的な素質も持っている。今回は倒叙ミステリーだから犯行の過程はリアルだが、発覚の経路におどろきがなく、平板な印象。実はクロフツの持ち味は倒叙モノでは発揮できないのではないか」という卓見も。

「英国人のイメージだと現在のクロイドンは地味なところ、渋谷から見たXX(特に名を秘す)」といった貴重な証言のご報告もいただきました。

ハヤカワ版で新訳をなさった加賀山卓朗さんからのメッセージも、那波かおりさん経由で頂戴し、当日配布資料に掲載させていただきました。ありがとうございました。

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いやあ、予想に反して、みなさん積極的に課題図書を楽しまれたようで、一安心。驚天動地の大トリックや、意外な犯人、論理のアクロバットばかりが「楽しめるミステリー」じゃないってことですね。

創元推理文庫版とハヤカワミステリ文庫版の翻訳の違い(ラストの一行はぜひ比較なさってください!)も話題に上り、あっという間の150分。

読書会の締めは、恒例になっているおすすめ作品の紹介コーナー。今回は「乗り鉄ミステリーファン」のA氏に、凝りに凝ったプレゼン資料をご用意いただいての「乗り物ミステリー」紹介。またまた読みたい本がたくさん増えてしまいました。

そして、一行は「二本松の提灯祭り」へと繰り出して行くのでありました…。

今年の2月に産声をあげた福島での読書会も、無事三回目を終了することが出来ました。ご参加いただいたみなさまはじめ、開催のPRにご協力いただいたすべての方へ御礼を申し上げます。

次回の読書会アルファベットシリーズは、W・デアンドリア「ホッグ連続殺人」を課題図書にしました。これで「H」と「G」をいっぺんに消化しちゃおうという魂胆で、2013年陽春開催です。なにしろ「ABC」からはじめて「XYZ」まで、5年で駆け抜けようという企画ですので、無理やり「HG」なのはどうか大目に見てやってください。そのくせ「お寺de鉄鼠」とか「GUIN SAGA」とか、横道にそれてばかりですが…。

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