全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 今回は、L・T・フォークス『ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ』『ピザマンの事件簿2 犯人捜しはつらいよ』(ヴィレッジブックス)をお届けします!

 主人公のテリーは26歳。身長195センチ、束ねている長い黒髪、口ひげ、良く言えばダメージ加工されたチェックのネルシャツとジーンズ、足下はハイカットか作業靴という、絵に描いたような(挿絵はありません、念のため)ガテン系マッチョ(既にこの時点で大騒ぎしている腐女子の方々が目に見えるようです)。大工という天職を得て、結婚し、順風満帆な人生を送っていたはずが、いろいろとケチが付き始めた挙げ句に泥酔してバーを破壊。暴力行為でムショにぶちこまれた結果、仕事も女房もトレーラーハウスも失いますが、なくして一番辛かったのは何よりも愛していたトラック!!

 おつとめを終えてシャバで迎えてくれたのは、かつての大工仲間で親友のダニー(26歳、身長ほぼ同じ、金髪ポニーテール)。住んでいるボロ家に快く迎え入れてくれ、ヤロー2人は清らかで(強調)きままな同居生活を始めます。

 ムショ暮らしを経験したからか、テリーにとっては何もかもが新鮮で、無駄なことなんて何もない。何かに対する考え方として、

「コップに水が——(1)もう半分しかない (2)まだ半分もある」

 という例えがありますが、テリーはまさに後者の典型。たまたま通りかかった繁盛したピザ屋に配達員募集の貼り紙を見つけ、ふたつ返事で採用されると、ムショ帰りのショボい自分にも誇れることがあった! 無傷の運転免許だ! と感動。それがあまりにまっすぐで清々しいため、まったく鼻白むことなく素直に「良かったね!」と感情移入してしまうこと間違いなし。ヤクザ映画の傑作『男たちの挽歌』でムショ帰りの主人公が職を求めてタクシー会社に就職すると、実は従業員ほとんどが前科者だったという感動的なシーンがありますが、このピザ屋カーロの従業員も個性的な面々。全身黒で身を固めたバイク野郎のバンプ(198センチ、長髪ブロンド、口ひげ、太鼓腹、強面)、夜勤マネージャーのグラフ(年齢、身長テリーとほぼ同じ、長めの黒髪、スリム、ロング睫毛のモデル並みハンサム)他、グッドガールにバッドガール、ちょっとキモヲタ系……といろんなニーズにお応えできそうですが(?)、やはりなんといってもこのシリーズ、ガタイのよすぎるメンズが勢揃い!!! ガタイもいいけど気だてもいい! 人情も厚ければ胸板も厚い!!

 さらに、そんなガッシリ系の割には皆さん大変お行儀がよろしい。酒で人生をやりなおすことになったテリーがノンアルコールでノードラッグなだけではなく、まわりもみな泥酔はしないし絡まない……だけじゃなくて、仕事に対して一生懸命で前向きなところに大変好感が持てます! 実はこの小説の大きな読みどころは“懇切丁寧な仕事の作業描写”。ピザの配達というのはおそらく「他に出来ることがないから仕方なく」やるイメージ。『タラデガ・ナイト オーバルの狼』という超弩級の爆笑コメディ映画では、ストックカーレースの花形レーサーがある理由で引退、結局ピザ配達の仕事に就きますがナメてかかって大惨事!<客が(笑)。

 それはともかく、文中で出てくる仕事の段取り描写が秀逸! 大工仕事はもちろんのこと、フライ用のポテトを切る場面といい、閉店後の掃除ですら、工場見学や職人の手作業を見るように楽しく描かれています。それもそのはず、この小説は「働く男/ Working Man」シリーズの1作目。登場人物達のキビキビとした作業シーンは萌えポイントではないでしょうか! 元来働き者のテリーは、ピザ屋の勤務以外にデッキ作りという大仕事を請け負うのですが、文字通り汗水垂らして愛する大工仕事に精を出すその姿は、自分の城の屋上を修理するエーベルバッハ少佐(注)を彷彿とさせます。おまけにパワーショベルまで使いこなせるとなっては、ガテン萌え腐方面にはもはや向かうところ敵なしの感じ。

 この設定だけで「ああ!読んで良かった!!」と満足してもいいんですが(筆者含む)、ここからが事件の始まり。配達の仕事も慣れ、バンプの家のデッキ作りが評判を呼び、瞬く間に数件先まで仕事をもらえて幸せいっぱいのテリーでしたが、ある晩、ちょっとkyな同僚が駐車場で刺殺体となって発見されます。誰もが顔見知りな小さな町での凶事。せっかく溶け込んだ共同体で、古参の刑事に犯人扱いされる前科者のテリーを救わんと、男気溢れる仲間達が犯人探しに奔走します。

 あんまり腐ってないじゃん! と思った人はまだ早い! 捜査に加わった新人警官ジョン(みんなよりちょっと若くて身長180センチと小さめ*1だけど筋肉質のタフバディ)は、転属ほやほやで汚いモーテル住まい。困った時はお互い様、とナイスガイなテリーは容疑者扱いされたにも関わらず、ダニーと住む我が家にジョンを住まわせます。ところがこの彼、趣味は料理。いそいそとキッチンに向かっては手際よくごちそうを作り、テリーと仲間達に振舞います。珍しい料理に舌鼓を打つ野郎どもが美味しそうに食べているのを見て満足なジョン……そうなんです! この小説、テリーを始め、主要人物のほとんどが性格がいいため、何かに付けて「いい奴だなあ」などと仲間の良さを再確認し、「俺はこんな奴らと知り合えて本当に良かったよ!」という喜びを隠すことなく、大勢でキャッキャウフフと戯れるシーンが満載なのでした。まあ腐った眼で見なければ「男の友情っていいなあ」で済んじゃいますが、これはもう実際に読んでいただいて、皆様の妄想力に期待したいと思います。

 今風に言えば「ガテン系ブロマンス」のピザマン・シリーズ。もう一つの大きな魅力は会話文のテンポの良さ! テリーの一人称で描かれた地の文も生き生きしてすんなり入ってきますが、会話に至ってはキャラの書き分けが絶妙!! 鈴木恵さんの訳文はリズミカルでどれも読みやすく、刊行時話題になった「おったまゲロゲロ」も素晴らしいのですが、会話の途中で「てのも、……」と始まったりするところとか、話し手の表情がそのまま画として浮かんでくるぐらいです!

 そして忘れてはならないのが、ここに出てくるアメリカンなメシがどれもこれも美味しそうなんですよ!! たっぷりした朝食メニューに、ジョンが作る珍しい(本書比)料理の数々。かなり高カロリーだけど、なにせ奴らは肉体労働者なんでまったく気にしてません(笑)。文中に何度か出てきた「テキサス・トースト」なる代物、私がテキサス行った時には食べた覚えが無かったので調べてみたら、いわゆる食パンにバターとかガーリックを塗ったトーストのようです。あんましテキサスっぽくないですよねえ(笑)。

 2作目ではテリーのムショ入りの原因となった妻メリールーになんと殺人容疑がかけられてしまいます。最低のばか女といえども、そんなことをしでかす奴じゃない! と、またまたテリーと気さくな胸板軍団が捜査を開始。新キャラも続々と登場しますが、中でも要チェックなのはイケメンマッチョな双子のゲイ! ある意味保守的な生活環境に育ったテリーは、最初のうち2人にどう接していいか戸惑います。ですが、彼の性格と周囲の人たちの態度のおかげで、すぐにうちとけて仲良しに。このシーンも含め、続編はちょっと心温まるエピソードが多く、ラストは目頭が熱くなるかも。

 というわけで、1作目は内容にほとんど触れることなくほぼ人物紹介のみを熱く語ってしまい、2作目に関しては超特急で触れただけになってしまいましたが、それほどまでに愛おしい奴らなんですよ! そして最後に一つだけ、1作目の舞台は初夏、2作目は初冬なので、季節によって違う仕事の辛さなんかも比較して読むと面白いです。それから、ファッションに関するテリーの意外な俺的こだわりとか、2作目でいきなり髪型を変えてしまったテリーに対する周囲の反応とか、ここには書いてないいろんな読みどころがたくさんありますので、ガタイマニアの方以外もぜひぜひ読んでみてくださいね!!!

 なお、このシリーズは3作もので、あと1編未訳( Early Eight )が残っています。ヴィレッジブックスさま、全国のガテン萌え腐女子のためにどうぞよろしくお願いします!

(注)言わずと知れた腐女子のバイブル『エロイカより愛をこめて』のNATO情報部少佐。先祖が貴族なのでお城を所有しています。

♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 Twitterアカウントは @suttokobucho

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*1:本書比