吹く風が心地よく感じられる五月二十六日。

 福島県郡山駅前にそびえるビッグアイ七階特別室において、第五回福島読書会の幕は切って落とされようとしていました。翻訳ミステリーの「ABCからはじめてXYZまで」を網羅しようというアルファベット・シリーズ読書会、今回の課題書は「K」A Kiss Before Dying『死の接吻』です。

 開催一時間前だというのに、次々集まってくる参加者たち。

 今から話し始めたのではネタが尽きてしまう、とこの日の世話役ふたりが心配になってきた折りも折り、ノックの音が。ドアを開けて入ってきたひとりの女性「こちらの責任者の方は」……、なんと、数日前の地元新聞紙上に掲載された読書会の告知記事をご覧になっての、飛び込み参加でありました。開催を知ってからわずか数日で課題書を読み、参加を決める熱意と行動力に、一同敬服。

 嬉しいサプライズに、資料が足りないとうろたえる世話役、自分の資料をコピーすればと適切なアドバイスをする参加者、それは名案、なぜ気がつかなかったとあわててコンビニへ…思わぬ展開に世話役ふたりがあたふたするうちに開始時間となります。

 さて、当会の主催者@nazotoki2012氏が、まさかの欠席という最大のサプライズも、さっしのいい参加者のみなさんにはお知らせ以前にネタばれ状態、いつものように、自己紹介が一巡したところでようやく本題へー。

 まずは、「ストーリーと構成が面白い」という意見が多く、読書会の課題書になったので初めて読んだ人が大半という現実に、筋金入りのミステリ読みの参加者からは「え〜」「え〜」という声が、開戦合図のほら貝のように鳴り響きました。

 参加者のみなさんからは、ミステリーとしての出来不出来、面白さよりも、登場する三姉妹への意見が集中、「ゆるゆるなのよ」「よく言えば素朴・素直・純粋だけど、幼すぎることこの上ない」「読む人をイラつかせる」「やはりうかつで、ちょっと軽薄で」「性格もやはり古風」「ちっとも共感できない性格」いやはや、三人のヒロインはこてんぱんにやっつけられてしまいました。それも、この作品の発表時に「若き天才作家現る」と評された、アイラ・レヴィンの描写力のゆえ。第一部で「彼」に感情移入して、思わず応援した男性参加者や、第二部の主人公の扱いに立腹した女性参加者もいました。それくらい人物の造形や描き分けがしっかりしている作品だって事ですね。

 第一部の犯人視点で盛り上がるハラハラ、ドキドキ感、第二部の犯人探しと絶妙なミスリード、そして第三部のサスペンス…一粒で三度美味しい作品、犯人と被害者双方の父親、母親の愛の形や、登場人物におちる第二次世界大戦の影といった部分は、参加者のみなさんに共通した印象だったようです。

 二本松市玉嶋屋の玉羊羹ハート型二種と夏季限定「うすらい」、十色マカロン、プチドーナッツ、「死の接吻」の三姉妹をイメージさせるチョコレートトリオ(KISSチョコ二種とある種の一粒チョコ)を楽しんだお菓子タイム(差し入れありがとうございました!)も終わり、後半戦へ。ここまで来ると、緊張のあまり手に汗握っていた世話役もリラックスモード。

 それぞれの手にしている文庫本を、互いにのぞきあいながら会話がはずみます。三種類ある装丁のうち、いちばん新しい版を手にしている人たちは、茶色くくすんだ初期装丁版が気になり、ネットでは河村要助イラスト版しか引っかからないよねといった書誌情報も行きつ戻りつ。

 赤いバラが描かれた新装版を指して、作者名「ヴ」の字が凄いということに話題が集中。ヴの先っぽがひしゃげていて、アイラ・レヴィン氏の顎のようになってる!とのこと。すると、三種類の著者近影がまたまたみんなの目に付くところとなり、若々しいものから、年を経て、白髪への変遷が一目瞭然。これだけ版を重ねて読まれているんですねとの納得発言。直後、寡作の作家なのにねと、再びの納得発言。

 和気あいあいの会話は、同じ建物内のイタリアンレストランで行われた食事会になだれ込むのでした…。

 以上、ご報告は福島読書会のマリー・アントワネットでした。

追記 

 今回はホームグラウンドの二本松市を離れて、郡山市での開催となりました。郡山を選んだ理由はご説明するまでもないかと。今後も県内各地での開催を企画していこうと思っています。

 せんだい探偵小説お茶会とのコラボ企画で、5月の仙台『占星術殺人事件』読書会にご参加の方は、当『死の接吻』読書会を無料にしたのですが、さっそく一名、両方にご参加の方がいらっしゃったのも嬉しいご報告です。

食事会での第二課題書『ビッグ・ドライバー』読書会に関してのレポートは、福島読書会AtoZの公式ブログhttp://blog.livedoor.jp/nazotoki2012/で発表するとかしないとか…。

 当日になって参加いただいた女性は、かなりのミステリーファンとお聞きしましたが、ネットもメールもなさらない方だそうです。もともと当会は、自分でネット検索して福島読書会のブログを見つけ、参加お申込みをいただいた方が多いんですが、ツイッターやインターネットに頼りきりにならず、書店や図書館での露出、新聞告知記事の掲載依頼などで、さまざまな層のミステリーファンに読書会の輪を広げていく事も、これからの課題ですね。

 以上、追記は、読書会欠席者@nazotoki2012でした。

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