最高気温33度。
名古屋にしてはそれほど暑くない土曜日、中京競馬場には「らしくない」団体が集結していた。第8回名古屋読書会の面々だ。課題図書ディック・フランシス『度胸』にちなんだ競馬体験・競馬場周遊・障害レース観戦のプレオプションには、午前の部・午後の部合わせて36名が参加。
無駄にクオリティーの高い参加証代わりのリストバンドを腕に巻き(経理担当幹事I嬢の手作り・はぐれたときに仲間がすぐにわかるように)、文庫を片手に持ち、ぞろぞろと移動する団体はいったいどのように見えたことであろう。どこのマダムかというような女優ファッションあり、どこの女将かというような和服あり、ポンチョあり、サングラスあり、サマースエター(断じてセーターではない)あり、乗馬靴あり。ちなみに女優ファッションの受付担当幹事S嬢を巡って「うわあ、馬主みたいだ!」「失礼な、私のどこが馬刺しみたいなのよ」という会話があったらしいことを記しておく。
参加証代わりの手作りリストバンド。リバーシブルでストラップなどに再利用可能。
この謎の団体、もしも周囲の人が会話を聞いていたらきっと驚いたであろう。パドックでは「こんなところで自殺を?」「ピストル持ち込めるの?」という不穏当ぶり。障害レース観戦中は「それほど危険には見えないね」「落馬しないよ?」「頭から落ちた上に馬が倒れてくるんじゃないの?」「ゴール間際で座り込むのマダー?」……通報されなかったのが不思議なくらいだ。中京競馬場の懐の深さに感じ入る。
大半がド素人である。ゲストのひとり、鈴木恵さんの案内&ご指導を賜るという贅沢な企画に、勝利の女神も微笑む。途中から参加した私が皆に「どう? 勝った?」と訊ねると次々と手があがった。おお、それは素晴らしい。「100円が140円になりました!」「私は160円に!」……そ、それは素晴ら……しい。「私は駅前の古本屋で『ホームズ贋作展覧会』を拾いました!」……う、うん、まあそれも勝ちと言えば勝ちだが。なお、コーチだった鈴木恵さんは「皆さんの前で払い戻し機から万札がズッと出て来るところを見せる」予定だったそうだ。これ以上は語るまい。
午後からはもうひとりのゲスト、蓮見恭子さん(競馬ミステリ『女騎手』『無名騎手』絶賛発売中)も合流。京都や阪神では見られないという枠場や検量室を堪能された由。堪能と言えばもちろんその間、田口俊樹・北上次郎というふたりの大御所はたっぷりレースを堪能なさっておられたご様子。
そして読書会メンバーはそれぞれが自由行動に移り、飲む者、駅前古本屋に向かう者、引き続き競馬を楽しむ者、課題図書を読む者(まだ読んでなかったんかい!)など、夕方の読書会での再集合まで思い思いの時間を過ごす。同時開催(という言い方でいいのかな?)の函館競馬場最終レースでは「ナムラドキョウ」という、まさに今日にぴったりの名前の馬が勝った(そしてそれを買っていた人がいた)というニュースも飛び込み縁起がいい。『度胸』の舞台を肌で感じた面々による読書会、さてその行方は──。(中編に続く)