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 というわけでようやく3チームに分かれてのグループディスカッションが始まります。短編集を課題図書にするのは初めてで、どうしたものかと進行に悩みましたが、始まってみればそこはフリーダムが身上の名古屋読書会。小さなツッコミから根本的な疑問まで出るわ出るわ。たとえば作品別の感想だと──

「『会心の笑い』がシリーズ1作目ってどうなの」「シリーズにする気なかったんじゃない?」「あたしも片づけられないクチなんで、これ他人事じゃない…」「ていうかこれ、オチわかるよね」「これってアレじゃない? ほら、銭形の(ネタバレ)」「そうそう!」「この短編って、ヘンリー、腹黒いよね」「いや、基本ヤツは腹黒いぞ?」「他の話でも、他の人が話してる間にこっそり辞典で調べてたりするもんね」「ずるい」「性悪」「畳の上じゃ死ねないよねヘンリー」「まあアメリカ人だしね」

 いや、そういうことじゃなくて。

「チョウセンアザミって何?」「アーティチョークです」「アメリカ文化とか地名とかを知らないと、意味のわからない話がけっこうあるよね」「うん、そこはちょっと楽しめなかったところ」「『奇妙な省略』なんてアリス読んでないとわからない」「いやむしろ、わからないからこそアリスを読もうって思わせるんだよ。それが小説の力じゃない?」「ヤンキー・ドゥードゥルの歌ってどんなの?」「アルプス一万尺ですよ」「えっ、そうだったの?」「大矢さん、板書が一万弱になってます」「9900くらいですかね」

 そういうツッコミはいいから。

「『明白な要素』って、こんなのありか?」「短編集だからまだしも、長編でこれやられたら本投げるだろうなあ」「あ、××の長編にあるよ」「うそっ」「『指し示す指』ってさ、シェークスピアのことあれだけ語っておいてオチはこれかよと」「実はこれ、うちのおじいちゃんが亡くなるとき同じことが」「じぇじぇっ」「『日曜の朝早く』ってさあ、これ気付くだろ普通、って思うんだけど」「うん、気付くよねえ」「これさ、ホルステッドが『会心の笑い』をdisってるのが面白いよね」「えっ、どこ?」「ほら……」

 そしてもちろん、全体を通しての話も出ます。まずはキャラクタについて。

「人の区別がつかん!まったくつかん!」「ただでさえ名前覚えられないのに、欠席するヤツいるし」「レギュラー固定して欲しいよねえ」「口調もヘンリー以外同じなんだよね」「〜でござる、とか、〜なっしー、とか言ってくれれば区別つけやすいのに」「嫌だろそんな黒後家蜘蛛の会」「ゲスト連れてきたなっしー!」「やwめwろww」「私はラジオドラマから入ったからキャラは掴みやすかったですけど」「ヘンリーは攻めですよね」「え?」「え?」「え?」「名前が覚えられないときは頭文字だけ記憶するといいですよ。これ有栖川有栖さん方式です」

 設定や物語について。

「男子会楽しそうですよね」「仲良しのおじいちゃんが喋ってるだけの話なのになぜ面白いんだろう」「毎回雑談が長い」「でもさ、普通これだけ雑談してたら、そこに伏線仕込みそうなもんじゃない? ところが…」「謎解きに一切関係ないときあるよね」「女人禁制なのはどう?」「だから生活感がなくて、パズルに徹せるんじゃない?」「ゴンザロは受けかなあ」「え?」「え?」「え?」「作品の配列の妙もある」「『会心の笑い』で始まって、一巻の最後が『死角』っていいよね」「大人向けの、人が死なないミステリ、日常の謎の議論型って、これが最初ですよね」

 アシモフへの感想はこれに尽きる。

「後書き、長い!」「しかも自己主張が強い!」「でもそこが面白い」「雑誌掲載時はタイトル変えられたって文句ばっかり」「前書きなんてラノベっぽいよね」「アシモフが現代にいたら人気ブロガーになってたでしょうねえ」「そしてしょっちゅう炎上してたろうね」

 本そのものへの感想は

「字が小さいですー」「老眼には辛いですー」「電子書籍にしてくださいよう」「お願いしますよう」「新装版になったとき字のサイズ変わった?」「ちょっと大きくなってる?」「っていうか表紙のイラストっていつ変わったの」「あたしどうしても4巻だけ見つからなくて、しょうがないから買いなおしたら4巻だけ新装版で」「うわあ、それは気持ち悪いww」

 そうそう、二次会でSさんから出た話ですが、本の話題なのでここで紹介しておこう。皆さん、お手持ちの『黒後家蜘蛛の会』2巻、37ページをご覧下さい。そのページに1か所だけ、誤植があります。さてどこでしょう? これ、その場にいた参加者のそれぞれ違った版を付き合わせた結果、どの版でも誤植はそのままでした。たぶん今もそのままです。意外な場所です。普通気付きませんこんなとこ。っていうかこんなところにも誤植ってあり得るんだというのにビックリ。気付いたSさん、すごい。

 出た話を全部書いてるとキリがないのでこの辺で。次回いよいよ後編(上)だ!

【後編(上)につづく】(後編(上)は12月6日に掲載する予定です)

大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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