第10回名古屋読書会『夢幻諸島から』レポート中編「混乱の島」

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 レジュメが到着して、おっと失礼、我らがK藤氏が到着してどうにかこうにか読書会スタート。参加者全員を3チームに分け、前半90分を使ってチームディスカッションを行います。K藤班には翻訳者の古沢嘉通さんと、個人でレジュメを持ち込んで下さったSF猛者のT氏が。大矢班にはSF評論家の渡辺英樹さんと、在名ミステリ作家太田忠司さん(PHP文庫より『星空博物館』3/8発売!)が。そしてK桐班では長澤唯史教授に加え、在名ミステリ作家水生大海さん(原書房より『転校クラブ2 シャッター通りの雪女』3/26発売!)が板書係を務めるという布陣です。

 チームディスカッションは三班とも同じ進行。まず自己紹介と、どんなことでもいいので感想を一言。そして最も印象に残った短編(島)を挙げてもらう。出た意見はどんどん板書していく。一巡したら、出た意見の中から疑問が集中した箇所や、他の人の意見を聞きたいと思った点について自由討論をしてもらうという手順。今回、大矢班とK藤班はチームリーダーがSF脳ゼロなので、各班の専門家にその都度助言をいただきます。「自分にできないことはムリをせず、得意な人にやってもらう」が基本スタンスの名古屋読書会です。いやもう、ホント助かりました。ありがとうございました。

 その後、休憩を挟んでホワイトボードを並べ、机も片づけて全員で前に。それぞれのチームリーダーが主立った意見をまとめて発表、複数班で出た疑問点についての結論をすりあわせます。他班の意見で気になったものがあれば挙手して質問、更なる意見交換などなど。

 以下、各班で出た意見を板書と聞き取り調査の上、読書会後半の全員討論も交えて再構成しますと。

「では最初に何でもいいんで感想を。現役大学生のDくんから」「あ、ボクですか。そうですね、一番印象に残ったのは……芸術家がエッチをするところです」「そこ?! いきなりそこ?!」「読書会の第一声がそれ?!」「さすが若人」「さすが男子」「おばちゃんもう枯れちゃって、そういうシーン何も感じなくなっちゃったわー」「え、いや、あの、だって芸術家がエッチするって珍しくないですか」「するよ、芸術家だって普通にするよ!」「むしろ変わったことしそうだよ!」「そもそもこの人たちの芸術って穴ほ」「おっと下ネタはそこまでだ」

 たとえその場に訳者がいようと物怖じしないのが名古屋。

「正直に言っていいですか。……最初、すっげえええ読みにくかった!」「あっ、あたしも」「あたしも」「序文がね、読んでも読んでも頭に入ってこなくて」「でもほら、古沢さんが〈読みにくかったら最初は跳ばして、大オーブラックから読むといい〉って言ってたから、そうしてみたら一気にハマった」「大オーブラックの凶悪極悪昆虫スライム、面白かった!」「でもスライムって名前どうなの? どうしてもネバネバしたもの連想しちゃうんだけど」「スライムなのに黒いのかよ、と」「ここのスライムはもっと甲虫(こうちゅう)だよね」「(古沢)ここはスペルがthで始まるので表記を変えたかったんですが、ネイティブが音読するとやっぱりスライムって発音してるので、変えられなかったんです」

 SF者・ミステリ者の違いも際立ちました。

「やっぱミステリ者としてはさ、パントマイマー殺人事件だよね」「殺人、キターーー!って思った」「でも本格じゃなかった」「一応、あとで犯人わかるけど」「いや、そうでもないよ。だって××は○○じゃないかもしれない」「えっ」「えっ」「むしろここは△△だったんじゃないかと」「あっ」「あっ」「うーーースッキリしないっ!」「スッキリしないのは全体だよ、こっちで死んでる人がこっちは生きてて」「それ最大の謎!」「このふたりのどっちが先に死んだかは考えればちゃんと筋が通るのかな」「いや、通らなくてもいいんだって。その多様性がSFの醍醐味なんだから」「SF者はそれで気持ち悪くないの?」「いやむしろ気持ちいいね」「えええっ、いやだあ」「ギブミー辻褄!」「テルミー真相!」「伏線は回収!」「真実はいつもひとつ!」「そんなに辻褄って大事? 風呂敷をダイナミックに広げるのがSFだよ」「風呂敷を意外な畳み方するのがミステリなのっ!」

 それでも意地で整合性を見つけようとするミステリ者たちのあくなき戦い。

「じゃあホントに辻褄合わないか考えてみよう。この矛盾を解決する方法は何かある?」「はい、××は☆☆☆だったんじゃないかと思います」「確かに、コラゴで出て来る☆☆☆の話がそれっきりだから、実は……というのはあり得るか」「だとしたらどうなる?」「この章の主体は、実は××の方だったとすれば」「そうか〈信頼できない語り手〉のパターンだ!」「一人称なんて信じちゃダメなのよ」「はいはい、そうじゃなくてこれをパラレルワールドだと考えれば、異なる世界が両立し得ると思います!」「あ、そう来たか」「あたしはむしろ時間が歪んでるんだと思ったけど」「う、そう来たか」「結局……わかんないのね?」「それでいいんです」「これだけの案が出ること自体が楽しいでしょ」

 そして思う。『夢幻諸島から』とは何だったのか。

「とにかくバラエティに富んでるのが楽しいよね」「おせちみたい」「物産展みたい」「ミークァは自分のイメージするSFの話に近かったな」(人気投票ではミークァが1位でした)「どれも想像力を刺戟する。ミークァなんてナウシカっぽくなかった?」「じゃあスライムが王蟲?」「それは違う」「それは違う」「スライムの出て来る大オーブラックは、エイリアンを連想した」「あ、それ思った! エイリアンvs.プレデターの世界」「私はこの夢幻諸島全体がムーミン谷みたいだなって。ムーミンのキャラを当てはめて読みましたよ」「スライムは?」「ニョロニョロ」「スナフキンは?」「◇◇です」「えええ?」「◇◇って、やたらと出てくるけどストーリーに関係ないよね?」「遊んでばかりで何しとんねんと」「もう◇◇が出てくるたびに、またおまえかと」「彼の存在理由って何なんだろ」「もしかしたら☆☆☆なんじゃ? ほら、あそこで……そう考えたらこっちも……ね?」「あっ」「あっ」「あっ」

「書簡の章もよかったなあ。雰囲気があしながおじさんみたいで」「『死せる塔』はホラーだよね」「そしてコミサー殺人事件はミステリ仕立て」「でも本格じゃなかった……」「わかった、もう言うな(そっと肩に手を置く)」「すごく描き込んでる島があるかと思うと、2ページで終わる島もあったり」「しかも最後に『どうでもいい』とかって書いてて、じゃあ書くなよと(笑)」「島ひとつ潰す話もあったり」「ぜんぶ通貨が書かれてるのがガイドブックっぽい」「芸術家カップルは、イザナギとイザナミを連想しました。なんだかふたりで島を作ってる=国を作ってるみたいで」「あっ」「あっ」「エッチする芸術家!」「エッチして島ができて……」「国産み!」「古事記だ!」「古事記だ!」「『夢幻諸島から』って古事記!」「プリーストって稗田阿礼!」「いやそれは違う」

 ほら、ちゃんと話が冒頭とつながったぞ。これが整合性です。これが伏線の回収です。ミステリ者はこういうところにこだわります。だってね、とにかく張りっぱなしの伏線が気になって気になって。これが最初からジャンルの違う話だと分かってるなら問題ないんだけど、『夢幻諸島から』って、「いかにも仕込みですよ?」っていう書かれ方してるから、もしかしたら解があるんじゃないかって思っちゃうんですよ。古沢さん、そのあたり、どうなんですか。

「うん、プリーストっていう作家はね」

 固唾を飲んで訳者の分析に耳を傾ける参加者たち。

「仕込みも多いけど、抜けも多いんです」

 全員、コケる。

 いやあ、まだまだ話はいっぱい出たんですが、これ以上はネタバレになるのでこの辺で。ここまででもかなり内容に踏み込んじゃってるぞ。「何も前知識を入れずに読むのがいい」って古沢さんがおっしゃっていたというのに。いいのか。まあいいか。これ以上のトークが気になった方は、ぜひ名古屋読書会にお越し下さい。

 さて後編は、前回に続いて全員で出し合った「次の一冊」ブックガイドだ!(後編に続く)

(写真は後半の全体討論風景)

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大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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