第7回千葉読書会レポート・後篇「ボーモントは大人にとってのブラッドベリだよ!」

(前篇はこちら

つづきです。

バトルの行く末も気になるところではありますが、まずはグループ2からの現場報告を。ご参加者のおひとり、ユイーさまよりお寄せいただきました。

む? むむむ? 何だと! 千葉でまたまたエポックメイキングな読書会が開催される?

その情報は、千葉読書会に参加したことのあるメンバーにこっそりと送られてくる秘密メールによってある日突然にもたらされた。

あろうことかそれは、二冊の本を同時に課題に取り上げるというクロスオーバー読書会が開催されるという全く以てとんでもない知らせだったのである。

しかも、俎上に上がるのはあの素敵企画〈予期せぬ結末〉シリーズの二冊だというではないか!

ジョン・コリアの「ミッドナイト・ブルー」とチャールズ・ボーモントの「トロイメライ」だ。

〈予期せぬ結末〉が課題だというだけでもそそられちゃうのに、それを同時に課題本にするんだって? 嗚呼、なんてセンスのあるセレクト。

そもそも、〈予期せぬ結末〉シリーズといえばさぁ…

所謂“奇妙な味”と称される摩訶不思議でキレのあるSFともミステリともファンタジーともつかない短篇群を多くものした短篇巧者の選りすぐりを集めた個人短篇集〈異色作家短篇集〉の衣鉢を継ぐ作品集としての位置づけが堪えられない! と云う訳で年季の入った翻訳もの好きだったら震い付きたくなるような本なんだよね。(どうでも良いけれど、わたしがホンヤクモンスキーになっちゃったのも〈異色作家短篇集〉に嵌ったのが切っ掛けだったりして…)この企画の存在が去年の翻訳ミステリー大賞授賞式のコンベンションで発表された時には、森川別館の大広間に溜め息のさざ波が起こったもん。

なんぞとぐるぐると廻る思い出に耽りつつ、二冊の課題本と〈異色作家短篇集〉のコリア『炎のなかの絵』、ボーモント『夜の旅その他の旅』、ついでに『残酷な童話』を再読の準備期間。いいね… コリアもボーモントも。昔々、〈異色作家短篇集〉に夢中だった頃、華麗なトリックで幻惑させるエリンの『特別料理』やとんでもなく恐くて夢に見ちゃいそうなジャクスンの『くじ』やメランコリィの中のメランコリィ、ブラッドベリの『メランコリイの妙薬』なんかの陰に隠れて若干地味で解り辛かったコリアやボーモント。それが、今、大人になって読み返してみるとそのえもいわれぬ滋味に舌鼓、舌舐めずり、そして旨味のあるストーリーテリングの見事さに舌を巻くしかないじゃあないか。(生きていて良かった!)

そんなこんなであっという間の読書会当日。

編者の井上雅彦さん、訳者の植草昌実さんのお姿を垣間みつつ、二手に分かれての読書会のはじまりはじまり…

今回の読書会は、参加者が二冊ある課題本のうちで自分の好きな作家(作品)の陣営に所属。それぞれにゲストを交えての談論風発を経て、最後に二陣営が合流しての侃々諤々という趣向で行われたのだった。

わたしはボーモント組での参戦。だって、色々と再読してみてボーモントのお話の奥行きと心の琴線をガガッとかき鳴らす純なところが良かったんだもん。因みにボーモント組には、訳者の植草さん、名古屋読書会の若き常連さん、世話人の高山さんのお顔も…

先ずは取っ掛かりとして一番のお気に入りを一人ずつ。

人が美しさという没個性の中に安穏とする世界に於いて横並びであることを嫌う少女の空しい戦いを描いた「変身処置」、必然として消え行く大地の怒りに共鳴する老人が主人公の「老人と森」などストレートなメッセージ性で心に迫る作品や、軽妙な悪魔と人間の丁々発止で笑わせる「悪魔が来たりて…」に人気が集中。収録作品の最後を飾る「終油の秘蹟」の静謐さや「エレジー」の情景の美しさに感動したとの声も。そして、異界の凶暴なクリーチャーとアンファンテリブルの競演「フリッチェン」の活劇! シリアス路線からスラップスティックコメディ、現代にも通じる風刺的な作品や、メランコリックなナイーヴさ… そんなボーモントの幅広い作風がひとしきり話題になって… んで結局、ボーモントの魅力をまとめると懐かしさ切実でストレートな怒りなんじゃないかと云うことに落ち着いたのであった。

昔の少女漫画を読んでいるみたいだったと云う人、物語の中に筋の通った正しさを見たと云う人…

わたしも同感。ボーモントって大人にとってのブラッドベリだな、って思う。ティーンエイジャーの頃がブラッドベリの旬だとすれば、ボーモントは中年世代で旬を迎える作家なんじゃないかしらん。

そして、いよいよ座が暖まり、鋭い問題提起が続々と!

Q/そもそも「予期せぬ結末」と云われても、別に「予期せぬ」ってほどのツイストはないんじゃないの?

「予期せぬ結末」は「意外な結末」という意味ではなくて、「あなたが予想した通りとは限りませんよ?」という目配せと捉えて欲しい。(植草さん)

確かに… それに、この作品群が書かれた50〜60年代にあっては、新鮮で驚くようなツイストだったとしても、現在はそれ自体が元になって様々に消費されて来た類型の原型として陳腐化してしまっている所は否めないかもしれないね。

Q/表題作の「トロイメライ」だけれど、これ、一体どういう話? 意味が分かんないし、全然ピンとこない!

解釈は人それぞれなので、思った通りに解釈してもらえば良いとは思うけれど、永遠の業を背負った何らかの意識が繰り返し繰り返し同じ罪を犯し、同じ罰を与えられ、しかもそれを永遠に覚えていなければならないと云う終わらない恐怖がテーマ。最後に出てくる生き物は、異界の生物かも知れないし、地球上の生物であってもシャコ貝のような意識があるのかないのか判別できないような軟体生物かも知れないし、それは読む人が想像してくれれば…(植草さん)

「トロイメライ」を原作にしたドラマをYouTubeで動画として観る事ができるので参考にしてみるとイメージを膨らませる助けになるかも知れないよ?(高山世話人)

Q/幅広い作風っていうけれど、ミステリかと思ったらSF、そうかと思えばコメディとせわしなく入れ替わって読み辛いんだけど?

沢山の作品の中から、既に短篇集として編まれているものを除外しつつ、様々な色合いを持った作品を編集した個人アンソロジーの性格が強いので、敢えてバリエーション豊かなセレクトになっている。それを楽しんでもらえたら…(植草さん)

はい、じつはQ&Aはまだまだつづくのですが、このくらいで許してください(笑)

ボーモントチーム、語りたいことが溢れていまして、気がついたら時間だ! バトルの準備なんてぜんぜんできなかったよ!(……え。)

そんなこんなで、ふたを開けてみれば、あれだけ「無理、ムリー!!」とかいっていたグループ1からの怒濤のコリア推しに、一同「ほおお」と聞き惚れてしまったのでした。なにせ演者が「エスキモーに冷蔵庫を売る男」「予期せぬ余興…」じゃなかった「無数の引出しを持つ男」「千葉読書会の切り札」などなど、ご本業(?)の古書業界以外でも数々の異名をほしいままにするあのお方でしたからね、ズルイです。

最後に井上さんが(グループ1なのに)悠然とボーモントのフォローをしてくださったのも、とても胸にこたえました……。

その後、グループ討論にそれぞれ参加してくださったゲストのお二方に加え、べつのご用を済ませて討論が終わったころに駆けつけてくださった扶桑社のYさんをお迎えして、〈予期せぬ結末〉シリーズの企画にまつわるお話や編纂時の逸話などをうかがいました。

「この企画の根っこには、映像を含む海外のカルチャーを丸ごと受け入れていた時代への郷愁がある」「入手困難の古い短篇を集めるために、図書館に通いまくってコピーした」とのお話がとても印象的でした。

さて、今回も楽しい会になりましたのは、ゲストのみなさま、お忙しいなかさまざまなかたちでご協力くださっているみなさま、そしてもちろんご参加のみなさまのおかげです。改めて御礼申しあげます。

次回、第8回は7月5日(土)を予定しています。

課題については、「チャンドラーのドラマ化の波に乗ってうちもハードボイルドいきますか」「でもさ、チャンドラーもいいけどハメットもね」なんて話も出ています。が、未定です、まだ変わるかもしれません。日にちは決定ですが、課題書については続報をお待ちくださいませ。

それではみなさま、またお会いしましょう。

ユイー

生まれながらのホンヤクモンスキー=翻訳もん好き。

翻訳ものを愛する人の総称を勝手にホンヤクモンスキーと名付け、その名の下、翻訳ものの

普及に貢献すべく地味に活動している市井の読書好きです。Twitterアカウントは @unyue

FacebookやG+でも同じ名前、同じ顔で出ています。

各地読書会カレンダー

これまでの読書会ニュースはこちら