田口俊樹

 遅ればせながら、紀 蔚然『台北プライベートアイ』(舩山むつみ訳 文芸春秋)読みました。いやあ、面白かった。もちろん翻訳のおかげもあるわけですが、斜に構えていながら、とってもとっても心温かな主人公の探偵が語る皮肉なユーモア、大いに堪能しました。私、普段は情景描写を読み飛ばすことが多いんですが、読むうち引き込まれ、あまりないことだけど、現地に行ってみたくなりました。痒いところに手が届くような訳注にも同業者として感服。また、英米のミステリーでは、テレビのコメンテーターがその存在自体、ジョークのように描かれているのをよく見かけますが、本作でもゴミ扱いされているところ、実に痛快でした。お勧めです。
 

〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕

 


白石朗

 ドラマ『協奏曲』(TBS、1996)を一括録画にて視聴。主演は田村正和と木村拓哉と宮沢りえ。初回での田村正和の意表をつく登場シーンと後半での佐藤慶の存在感をのぞけば、メインの筋立ては……まあ、なんというか、かんというか。ただし、バート・バカラックの名曲をアレンジした音楽(編曲:若草恵)はすばらしい。オープニングテーマはヴァネッサ・ウィリアムズが歌う絶品の「アルフィー」。BGMは「世界は愛を求めてる」「恋の面影」はじめ名曲ぞろいのうえ、主役3人がパリを話題にするシーンではちゃんと「エイプリル・フール」なんだもん。許しちゃうよね。
 そうそう、いまさらですがアンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(小野田和子訳)は最高にごきげんな一冊で、ペンギンボックス『おでかけ子ザメ』は最高に愛くるしい一冊でした。

〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も刊行。ツイッターアカウントは @R_SRIS

 


東野さやか

 二月になりました。本格的に「か」のつく作業に手をつけなくてはなりません。いえ、蚊取り線香作りじゃありませんよ。漢字四文字、ひらがなで書けば八文字、この時期の風物詩のアレです。
 ふだん、仕事をするときは音楽をかけず、場合によっては耳栓もしますが、このときだけは別。気分をあげるために好きな音楽をかけっぱなしで作業します。アメリカのロック、それもちょっとヘヴィなロックをかけることが多く、気がつくと、パソコンの前でガシガシ頭を振ったり、一緒に歌っていたりして、作業がまったく進んでいないことも。
 今年は二月十一日という絶好のタイミングで、スラッシュのニューアルバム『4』が発売されるので、それを聴きながらがんばる所存です。ついでながら、掃除はなぜか、ウェールズのバンド(うっかりイギリスのバンドと言うと、ウェールズと訂正されます)マニック・ストリート・プリーチャーズを聴きながらやるとはかどります。お勧めです。

〔ひがしのさやか:最新訳書はM・W・クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ文庫)。ハート『帰らざる故郷』、チャイルズ『スパイシーな夜食には早すぎる』、クレイヴン『ストーンサークルの殺人』、アダムス『パーキングエリア』など。ツイッターアカウント@andrea2121

 


加賀山卓朗

 アガサ・クリスティーの未訳の戯曲、Fiddlers Three(三人のペテン師)を訳させてもらいました。クリスティーの戯曲では、あの傑作『検察側の証人』や超ロングランの『ねずみとり』が有名ですけど、今回のこれはコメディで、雰囲気は『蜘蛛の巣』とかに近いかな。犯罪小説ふうの設定で、元気な仕切り屋の女性が活躍してとても愉しい。お約束(?)の恋愛模様も。舞台・上演時間という条件のせいか、女史の戯曲にはストーリーも人間関係も煮詰めて濃縮したような味わいがありますね。
 現在発売中の『ミステリマガジン2022年3月号』掲載です。書店へ急げ!(一度言ってみたかったw)

〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳。最近の訳書はスウェーデン発の異色作で意欲作、ピエテル・モリーン&ピエテル・ニィストレーム『死ぬまでにしたい3つのこと』〕

 


上條ひろみ

 笛吹太郎さんの『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』をタイトル買い&ジャケ買い。アシモフ『黒後家蜘蛛の会』に手本をとった安楽椅子探偵ものの連作短編集です。「古書店とカフェの町、荻窪に出版関係者らが集まり、お茶とケーキを囲んでゆるゆるとミステリの話をする」という《コージーボーイズの集い》、いいですねえ。コージーボーイズ(女性も一名います)という響きもいいなあ。コージーにかぎらず古今東西のいろいろなミステリ作品が登場して、とても楽しく読ませていただきました。大好きなんです、日常の謎系。〈ビストロ・パ・マル〉シリーズとかね。

 そしてさらにうれしい驚きが。なんとカレン・マキナニーのママ探偵シリーズ(拙訳)のことがちょこっと出てくるんです。作品中では「主人公が家事に大忙し」のコージー・ミステリの話題のときに作家名が出てくるだけなのですが、収録作品ごとに添えられている付記ではちゃんと〈ママ探偵の事件簿〉というシリーズ名と『ママ、探偵はじめます』の書名が! うれしすぎます! プロフィール紹介にかならず入れるぐらい大好きなシリーズなので……ありがとうございます!

〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』、エリー・グリフィス『見知らぬ人』など。最新訳書はフルーク『チョコレートクリーム・パイが知っている』〕

 


高山真由美

 第十三回翻訳ミステリー大賞の候補作がきのう(2月2日)発表されました。本投票有資格の翻訳者のみなさま、候補五作のなかに未読がありましたらぜひいまから読んでおいてくださいませ。近日中に本投票の日程も告知されますので、ご投票をよろしくお願いいたします。
 翻訳ミステリー大賞の予備投票は終わりましたが、「まだまだ推し足りない!」「この本の面白さをもっともっと知ってほしい!」という作品のある方には、現在(2月3日)投票受付中の「みんなのつぶやき文学賞」(詳細はこちら)や、3月に開催される「翻訳ミステリー読者賞」(詳細はこちら)への投票もお勧めします。自分で票を投じておくと、結果発表を見るのが何倍も楽しみになりますよね。

〔たかやままゆみ:最近の訳書はポコーダ『女たちが死んだ街で』、ヒル『怪奇疾走』(共訳)、サマーズ『ローンガール・ハードボイルド』、ブラウン『シカゴ・ブルース(新訳版)』、ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』など。ツイッターアカウントは@mayu_tak

 


武藤陽生

 つい先日、刑事ショーン・ダフィ・シリーズ6作目の訳稿を納品しました。『レイン・ドッグズ』のラストに驚いた方も多いと思いますが、ショーンがIRAに賞金を懸けられたカソリックの警官ということに変わりはないわけで……果たしてどうなってしまうのか、ぜひ楽しみにお待ちください! 今年はマイクル・リューインのアルバート・サムスンものも一冊訳させていただくことになっています。そちらもご期待ください。

〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが…)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕

 


鈴木 恵

 先月この欄でご紹介したアレックス・パヴェージの「黄金期本格ミステリ8選」から、未読のクレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』を読んでみました。羽田詩津子さんの訳者あとがきには「大人の洒脱なミステリ」とあり、まことにそのとおりだとニンマリして読みおえましたが、一方ではこの本、子供の頃に読んでみたかったなとも思います。なにしろ、14歳、12歳、10歳の三姉弟が隣家で起こった殺人事件の謎を解くって話なんですから。
 子供の頃に読みたかったといえば、第9回の当欄でご紹介したゲイリー・ポールセン『ひとりぼっちの不時着』もそうですが、さらにさらに去年、あの《五人と一匹》の原作も、早川書房から新たに出てるんですよね。『五人と一匹見つけ隊 見つけ隊と燃える小屋のなぞ』(イーニッド・ブライトン/河合祥一郎訳)。いいなあ。もう一度あの懐かしい木造の小学校の図書室に戻って、こういう本を借りられたらどんなに幸せだろうと、遠い目をしております。
〔すずきめぐみ:この長屋の万年月番。映画好きの涙腺ゆるめ翻訳者。最新訳書はライリー・セイガー『すべてのドアを鎖せ』ツイッターアカウントは @FukigenM