前編「ツッコミの森」はこちら
何を書いてもネタバレになるからレポに書くことが何もない……という心配はどこへやら。今回のもムダに長くなりそうなレポートですみません。ある仕掛けに気づいたか気づけなかったかで読書会内に思わぬ格差社会が生まれたわけですが、仕掛けを見抜けなかったＡグループに名誉挽回のチャンスが訪れます。
「ところでチェスター（作中で９歳女児が大事にしているぬいぐるみ）って結局何なんだろう」「ハートは、うさぎみたいな、って言ってるよね」「ブリンはサルだかロバだか、って言ってる」「サルとロバって違い過ぎだろ」「そこはたぶん原文では、monkey と donkey で韻を踏んでるんじゃないでしょうか」「おお！」「おお！」「おお！」「つまり日本語で言うならロバだかカバだか、みたいな」「あ、今、軽く翻訳をdisった？」「で、結局チェスターって何の動物なの？」
さあ、そこで！ おもむろにＡグループのＹ嬢がタブレット端末を取り出した！ 彼女は前回の読書会でも謎の食べ物・ビーフティの画像を回してくれたエビデンス・ガールなのだ。敬意を込めてエビちゃんと呼ばせていただく。Ａグループには起死回生の最終兵器・エビちゃんＹ嬢がいたのである。
「これがチェスターです（どや顔）」「えっ、チェスターって商品名なの？」「キ○ィみたいな？」「ミッ○ーマウスみたいな？」「こ、これは…」「サル…なのかな？」「オランウータン？」「どこが可愛いのかわからない」「っていうかむしろ可愛くない」「子供の感覚って不思議……」「アメリカってキャベツ畑人形を可愛いって思う国民性だからなあ」「でもハート、耳が長いって言ってなかった？」「耳、ないよね？」「持ち歩きすぎて伸びちゃったとか」「いや、もしかして偽物なんじゃ？」「えっ」「えっ」「えっ」「この子の親がどういう人物かというのを考えると、そんな正規品を子供に買い与えてるとは思えない」「いわゆるバッタモンか！」「だから耳が長いんだ」「ド○えもんの偽物が微妙に目鼻が違ってるような、ああいう」「なるほど」「なるほど」
ちなみにチェスターがどういうものか知りたい人は画像検索してみてください。このときの画像を見て宴会担当幹事Ｔ嬢が描いたチェスターがこれです。
当たらずとも遠からずの描写力です。ちなみにホワイトボードはいつも大２枚で足りなくなるので小１枚を500円で追加レンタルしたんですが、こんなことに使われるとは思ってもみなかった。あとチェスターは自分で「チェスターだよ！」と言ったりはしないぞ、多分。
さあ、これで名古屋読書会の「瑣末スイッチ」が入ったぞ。瑣末へのこだわりならまかせろ。
「ねえ、またこいつらデッキ作ってるんですけど」「やっぱりデッキか！ デッキなのか！」「なんだろうアメリカ人のデッキ好きって」「デッキがまるで幸せな家庭生活の象徴みたいに描かれるよね」「あとグレアムが夕ご飯作るところで出てくる〈スパゲティの藁人形〉がわからない」「それはやっぱり丑三つ時に」「そうでなくて」「これがスパゲティの藁人形です！（byエビちゃんＹ嬢）」「おお、画像再び！」「便利だなあタブレット」「あ、だったらさ、もうひとつわからない言葉があるんだけど」「何？ なんでも調べるよー」「ブロウジョブって何？」
……。
……。
……。
「いや、そ、それは」「知らないのか？ ホントに知らないのか？」「検索はしなくていい、っていうかするな。ましてや画像検索などもってのほかだ！」「ジョブはわかるよな？ ブロウってのは、だから、えっと、blowなんだけども」「髪をブロウするのブロウ？」「そうそう」「美容師？」「いやそうじゃなくて」「日本語だと〈吹く〉？」「ああっ、うん、そうなんだけど、えーっと」「なんて言えばいいのかなあ、ほら、楽器演奏的な」「え？」「え？」「え？」「まあそのあたりは二次会でビールを飲みながらゆっくりと」「微に入り細を穿って」「手取り足取り」「いやそれはやめろ」「だから検索するなって！」
主として男性陣が軽く焦り気味の一幕。
やっぱり名古屋読書会ってバカだよな、と今あなた思いましたね思ったでしょう？ しかし今回はひと味違う。こんなことばかりやってるワケじゃない。今回は翻訳者と担当編集者お二人を迎えたということで、今までにない「翻訳談義」がかわされたのだ。すごいと評判の特別付録の公開と合わせて、後編へ続く。
後編「叙述の森」はこちら
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◇大矢博子（おおや ひろこ）。書評家。著書にドラゴンズ＆リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』（東洋経済新報社）、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ（本の雑誌社）などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101。 |