第10回名古屋読書会『夢幻諸島から』レポート後編「未来の島」

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 さて前半のチームディスカッションと後半の全体討論の間に行われたのが「次の一冊」コーナー。チームディスカッションの最後の10〜15分を使って、『夢幻諸島から』を読んだら次はこれを読め、というのを好き勝手に出し合います。それをホワイトボードの裏面に筆記し、これも後半の全体討論で見せ合うという趣向。3班すべてで出た作品もあれば、1班でしか挙らないものもあり、多種多様。

 以下、ざっくりまとめて列記しますので、ぜひ読書のご参考に。

・まずはプリーストの関連作品をおさえましょう。

『夢幻諸島から』の世界をもっと楽しむなら『限りなき夏』。短編集で、うち4作が夢幻諸島もの。「火葬」にはスライムが出てくるよ」「あれ、こっちよりもエグいよなー」「あの人物のお兄さんの子供が出て来るのは「奇跡のケルン」だっけ?」「それと『夢幻諸島から』ではどの島も、通貨の他に××の対応が書いてあったろ? あの理由は『限りなき夏』の「ディスチャージ」を読めばわかる」「収録作はかぶってないの?」「かぶってないかぶってない」「他にプリーストで言えばどれがおすすめ?」「僕、昔『逆転世界』を読んだことあるんだけど、実はよくわからなくて」「ミステリクラスタにお薦めなのは『奇術師』かな」「もしくは『双生児』あたり」

『夢幻諸島から』に設定や雰囲気が似てるものと言えば?

「J・G・バラードの『ヴァーミリオン・サンズ』。不思議設定の砂漠のリゾートに芸術家が集まってくる話」「これどうなってんだ感が強いのはジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』」「エリック・マコーマックの『ミステリウム』もいいんじゃ?」「マコーマックなら『パラダイス・モーテル』も」「だったらいっそル・グイン『ゲド戦記』とか」「ル・グインなら『風の十二方位』も入れよう」「ああ、群島モノならクライヴ・バーカーの『アバラット』があるじゃないか」「飛浩隆『グラン・ヴァカンス』も近い」「佐藤哲也『異国伝』もいろんな国がカタログ的に」「架空の町のいろんな所を書いてるのが太田忠司『星町の物語』ですね」「島ならぬ星めぐりってことで、E・C・タブの一連の『デュマレスト・サーガ』を」



「あ、ところで大矢さん(板書を見ながら)、バーミリオンじゃなくてヴァーミリオンです」「ケルペロスじゃなくてケルベロスです」「バカンスじゃなくてヴァカンスです」「う、うるさいわねっ! 些末にこだわるんじゃないわよっ!」「いやそれ瑣末じゃないから」「ちょっと、ミステリクラスタ、何黙ってんのよあんたらも何か出しなさいよ。何かあるでしょ島めぐり的なのが。負けてんじゃないよ」「え……」「えっと……」「あっ! あった!」「よし、えらいぞ、何だ?」「『ONE PIECE』!」「……」「……」「……まあ、島めぐり、か。うん」

・島というキーワードで話は拡散する

「諸島つながりで多崎礼『煌夜祭』はお薦めです」「澁澤龍彦『高丘親王航海記』もありますね」「ああ、超有名なの忘れてた。スウィフトの『ガリバー旅行記』」「ガリバーといえば山口雅也さんに『狩場最悪の航海記』っていう作品が」「じゃあ『ドリトル先生航海記』も」「いや、航海なら何でもいいってわけじゃ」「どくとるマンボウ……」「だから航海なら何でもいいってわけじゃ」「やだー、もう島って言ったら十角館か獄門島しか出てこないー」「小野不由美『十二国記』はどうですか」「あ、あれ、島か」「さては十角館から連想したな?」「だめだ、島って言われたらそして誰もいなくなるやつしか出てこない」「嵐の孤島ものなら十や二十すぐ出ますけどダメですか」「ねえ、やっぱりトーベ・ヤンソンの『ムーミン』シリーズ入れたいんですけどー」


・浮遊感、酩酊感を感じられる作品なら

「そういえば風呂敷を畳まないミステリ作家がいるじゃないですか、恩田陸が!」「おお、恩田陸なら『ネクロポリス』なんて雰囲気近くない?」「倉橋由美子『酔郷譚』も夢幻の世界を行ったり来たり」「オープンエンディングってことでは芥川龍之介『藪の中』とか」「『薮の中』は森見登美彦も書いてる」「竹本健治『匣の中の失楽』の酩酊感も捨てがたい」「伊坂幸太郎『フィッシュ・ストーリー』も読者に投げる感じが」「放り投げると言えばマーク・Z・ダニエレブスキーの『紙葉の家』も、もやっと系だよね」「円城塔『Self-Reference ENGINE』はどう?」「あ、大矢さん、ダニエルじゃなくてダニエレです」「DefenceじゃなくてReferenceです」「う、うるさいっ!」



・ミステリ者が納得するSFとは

「ねえ、辻褄の合うSFミステリってないの?」「いや、そりゃたくさんありますよ。基本はホーガン『星を継ぐもの』かな』「ソウヤーの『イリーガル・エイリアン』も面白いよ。SFにしてリーガルサスペンスだもんね」「前回の読書会でやったアシモフもそうでしょ。『鋼鉄都市』『ファウンデーション』」「SFとハードボイルドがヘンな形で融合したのが、エリック・ガルシアの『さらば愛しき鉤爪』」「ハードボイルドなら、ジョージ・アレック・エフィンジャーの『重力が衰えるとき』が私立探偵ものだよ」「え、えふぃ、えふぃん……?」「大矢さん、板書代わりましょう」「すみません……」


「山口雅也『生ける屍の死』もSFミステリの傑作だよね」「ファンタジー系だとパトリシア・A・マキリップ『イルスの竪琴』シリーズ」「萩尾望都の『ポーの一族』も」「おお!」「おお!」「おお!」「ちょっと待って、どうして『ポーの一族』は感心されて、『ONE PIECE』は失笑されたわけ?」「え、いや、どうしてって」「そりゃ、なんというか」「もういいよっ、メリーベルに俺はなる!」

 ……というわけで出るわ出るわ。SF者に負けじとミステリクラスタも頑張りましたよ。このリスト、バラエティに富んでて、押さえるところはきっちり押さえた、なかなかの保存版なんじゃないでしょうか。

 そして読書会の〆は、事前に募集した『夢幻諸島から』推薦文コンテストの優秀作発表です。無記名で一覧になった応募作の中から、古沢嘉通さんと大矢がそれぞれ優秀作を選び、古沢賞には3月発売予定のマイクル・コナリー最新刊『ナイン・ドラゴンズ』(古沢嘉通訳/講談社文庫)が、大矢賞には大矢が解説を書いたS・J・ローザン『永久に刻まれて』(直良和美訳/創元推理文庫)が授与されます。

 栄えある受賞者は

 古沢賞「地図はなく、時間さえ不確かな広大な世界をただ彷徨う。夢幻諸島は読書の醍醐味そのものだ。」(作・K藤氏)

 大矢賞「この島々ではどんなことでも起こる。奇術師プリースト、至高の舞台装置。」(作・T井氏)

 あの遅刻騒ぎで参加者のキモを冷やしたK藤氏が、最後にちゃっかり賞品持って行くってあたりが納得いかんが、いずれも未読の人向けに本書のアピールポイントをしっかり汲み取った、良いコピーです。帯にどうですか早川書房さん?

 ということで第10回名古屋読書会も無事終了。場所をスペインバルにうつして立食パーティです。ここでも本の話でわいわい盛り上がり、初めての方にもお楽しみいただけたようで良かった良かった。こういうジャンル横断の課題図書も良いもんですね。

 今回もたくさんの方にお世話になりました。世話人の相棒にしてレジュメ担当幹事・K藤氏、経理担当I嬢、受付担当S嬢、宴会担当T嬢。名古屋読書会が誇る(名鉄さえ止まらなければ)盤石のスタッフ陣です。レジュメに寄稿してくれたK桐氏、B嬢、H谷さん、ご協力ありがとうございました。SF脳ゼロの幹事をサポートし盛り立ててくれたSFクラスタの皆さん、そしてもちろん、参加して下さったすべての皆さん、ありがとうございました!

 さて次回の告知です。第11回名古屋読書会は5月17日(土)開催。課題図書は、ハードボイルド史に燦然と輝く金字塔、レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』に決定! どっちで読んできてもかまいません。4月からは舞台を日本に移して制作されたドラマもスタートするというこのタイミングにやらずしてどうするか。正式告知と募集開始は4月半ばの予定。チャンドラー好きも、ギムレット好きも、浅野忠信好きも、綾野剛好きも、みんな集まれ〜。チャンドリアンK藤氏が腕によりをかけて仕切りますよ。電車さえ動けばな!

大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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