こんにちは oder こんばんは!

 お待たせしました!

 今さらかよぉ、とお思いの方もいらっしゃいましょうが、第五回翻訳ミステリー大賞の授賞式リポート、「Young Germany」サイトのリニューアルが出来てようやく掲載されましたので、もしよろしければご覧くださいませ。

 上記記事は、ミステリ業界というよりはドイツ業界・一般向けの内容のため、表現を丸めた点や言及を見送った点が多々あります。なのでそういうアレコレのうち、『三秒間の死角』読者賞に寄せられた著者・訳者メッセージの感動のように、すでに巷で評判になっているもの以外で印象深かったことを、この場をお借りしてちょっと書いてみようかと思います。

 まず、今回の授賞式に際しては、翻訳ミステリー大賞事務局メンバーであり『11/22/63』翻訳者の白石朗さんにいろいろとお世話になりました。そして、あの場ではけっこう白石さんの魅力が炸裂していました。といっても、訳書の受賞の話だけではありません。

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 白石さんは受賞者なんだから多少でも賓客っぽくふるまってよさそうなのに、トロフィーをもらった直後、もうほんとうに自然に「事務局のひと」に戻り、読者賞の模様の写真を熱心に撮りまくっていました。

 そう、それだよ、カッコイイよ白石さん!!

 私は声を大にして言いたい。

 この、欲得の混じり気のない、「いいものにしよう」という熱いマインドがこの場の魅力を支えているんです。それは白石さんだけでなく、他の方からもかなりビンビン感じました。素晴らしい!

 仕事柄、私はいろいろな場所で文化イベントに携わります。そしてときに、文化向上拡大のために絶好のポジションにいながら、まるで熱意もヒラメキもない、まさに退屈サラリーマンみたいな「文化イベント関係者」に遭遇して底なしの疲労感を味わうこともあります。だから今回みたいな光景に触れると、それだけで励まされる気になるのです。ありがとうございました!

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 そして、白石さんとの受賞ツーショット写真で、「血縁じゃね?」と妙に場を沸かせた担当編集者の永嶋俊一郎さん。2年連続の大賞制覇、そして出版社対抗ビブリオバトル勝利と、傍目には文句なしの絶好調!……にしか見えませんが、実は当日、風邪を引いてて絶不調だったという裏話があります。

 しかも私が会場で最初にお会いした時点では、へろへろ気味な上、黒スーツに黒ネクタイを締めていたため、なにやら疲れ果てたお通夜の世話役の人みたいで本当に大丈夫かしらと心配になりました。が、その後オレンジネクタイに締めなおし、突如——

「ご愁傷様です…」

 ↓↓↓

「おめでとうございます!」

 という劇的ビフォーアフターを遂げたのです。なんということでしょう!

(ここでビフォーアフターの音楽が一瞬入る)

 さすが永嶋さん! 脳内麻薬の分泌による復活でしょうか? いけない薬物投入の効果ではないと思いますが、このへんは別途追究してみると面白いかもしれません。

 また個人的には、最初の「七福神でふりかえる・翻訳ミステリーこの一年」コーナーでの、北上次郎さんの「俺はブンガクっぽいものは読まない!」主義をめぐる掛け合いが、「議論」と「お笑い」の間のほどよい温度で内容豊かに展開したのが忘れられません。

 ブンガクとエンタメの間の距離感は最近のドイツ文芸を語る上でも重要なポイントです。しかしドイツの場合、立場のある人が参加する場合は特に、楽しい雰囲気を維持しながらあの話題を展開させるのは難しいと思います。良くも悪くも真面目すぎるため、自分の存在価値を否定される危機感を膨らませた誰かがキレて、残念な形で議論が終わってしまう可能性が高いです。

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 七福神コーナーでは何が良かったのかというと、たぶん、自己・他者・テーマの三者それぞれについての「キャラ化」「ネタ化」というものが、了解事項としてうまく成立していた点でしょう。それがあの雰囲気と内容の両立をもたらしたような気がします。

 なんでもキャラ化・ネタ化すればよいわけではありませんが、それが知的に適切に運用された場合、これはいろいろな観念を喩えで例示するための強力な手法になるなと感じた次第です。

 私は今回、仕事の都合で第一部しか参加できませんでした。それでも大変楽しいイベントでした。関係者の皆様、本当にありがとうございました!

 ……と書きながら私は思った。あの場は上質で楽しい。ミステリマニアではないけどオモシロな読書人な知人にも来てほしい。が、では実際、そういう知人をすぐ誘えるか? といえば、けっこうな高さの壁がそこにある気がします。

 翻訳ミステリー大賞の主催者も参加者も、ぜんぜん排他的ではないのだけど、外部からそこに入ってゆく道は実はかなり細い。もちろん信頼の出来るメンバーどうしの安定感は重要です。しかし、文化市場の細分化・縮小化の問題が取り沙汰される今、ある程度は外部からの人の流れをつくる構えも必要なんじゃないかな……

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 と、そこで思い出されるのが、Young Germanyの記事にも書いたように、今回、「ミステリの総本山で非ミステリ作品が堂々と勝利をおさめた」ことです。深く象徴的な事態です。

 これはおそらく、ジャンルミステリの衰退というような単純な出来事ではない。逆に、内容の豊かさを維持しつつ、ジャンルの垣根が低くなっていることの表われだろうと思います。つまり実は今こそ、浮動票的な読書人を、「ミステリ」という概念をめぐる知的遊戯に取り込むチャンスじゃないかと考えます。

 そんな「受け皿」として、翻訳ミステリー大賞イベントを定義する道もあるはず。そしてある程度の認識共有が出来れば、けっこういろいろな「外部の人」を呼びやすくなり、新たなタイプの盛り上がりを期待できるかもしれません。期待しましょう!(そのためにはみんなでガンバラネバ!^^)

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 ちなみに。

 先般お知らせした日独協会イベント『帰ってきたヒトラー』トークセッション(7/4予定)ですが、申し込みが超殺到し、なんと開催1ヶ月前の6/4時点で早くも満席!

 その後はキャンセル待ち受付としていました。しかし、これはいっそのこと大きな会場に変更すべきでしょう、と関係者が密かに奮闘した結果、めでたく新会場が決定! 受付再開しました!

【トークセッション・小説「帰ってきたヒトラー」を語る!】

日時:2014年7月4日(金) 19:00〜21:00(開場18:30)

場所:中央区立日本橋社会教育会館

http://chuo-shakyo.shopro.co.jp/nihonbashi )

住所:中央区日本橋人形町1-1-17

【地図】


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会費:協会会員 1,000 円 一般 1,500 円

定員:かなりいっぱい

申込:E-Mail もしくは、FAX、お電話にてお申込下さい。

MAIL:jdg@jdg.or.jp

TEL:03-5368-2326

FAX:03-5368-2065

   お申込みの際には、イベント名と、会員の方はお名前と

   会員番号、一般の方はお名前とご連絡先(電話番号、

   E-Mail アドレス)をお知らせ願います。

 素晴らしいです。日独協会スタッフの皆様の熱意に大感謝!

 なので、興味を持ってサイトを見て「ああ、満席なのね…」と思われた方も、遠慮なくお申し込みいただければと思います^^

 ちなみに、日独協会のイベント告知ページもすでに更新されています。ごらんください。

 それでは、どうぞよろしくお願い致します!^^

マライ・メントライン

マライ・メントライン(Marei Mentlein)

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 ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介される場合が多いが、自国の身贔屓はしない主義。猫を飼っているので猫ラブ人間と思われがちだが、実はもともと犬ラブ・牛ラブ人間。

 ツイッターアカウントは @marei_de_pon

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