去る4月19日、東京・本郷でひらかれた「第五回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション」では、大賞の公開開票式に先立って「七福神でふりかえる・翻訳ミステリーこの一年」がおこなわれました。

 当サイトの人気コーナー「書評七福神の今月の一冊」は、いずれ劣らぬ読書の目利きたちが前月に読んだ翻訳ミステリーのなかからそれぞれのイチ推しを選ぶというもの。

 当日は「七福神」から北上次郎、川出正樹、酒井貞道の各氏が登場、われらが杉江松恋を司会に、第五回翻訳ミステリー大賞の対象期間に刊行された翻訳ミステリーから七福神がえらんだ作品を中心に、一年間の翻訳ミステリー界をふりかえることになりました。

 当日は四人それぞれが熱い思いでイチ推し作品を推薦する場面あり、たくまざるユーモアに満ちた発言に会場がおおいにわくひと幕もありました。好きな本のことならいくら話してもまだまだ語り足りないようすの四人でしたが、予定時間はあっという間に過ぎていきました。

 最後に、第五回翻訳ミステリー大賞の最終候補7作から、四氏が強く推す作品を挙げていただきました。結果は以下のとおりです。

  • 北上次郎氏:スティーヴン・キング『11/22/63』
  • 川出正樹氏:フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』
  • 酒井貞道氏:フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』
  • 杉江 松恋: アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』

 当日は該当期間内の「七福神選定作品一覧」を来場者のみなさまにお配りしました。おなじ内容の一覧表を、この記事の末尾に添えてあります。

 一覧表が見づらい方は、以下のリンクから PDFファイルをダウンロードしてください。

20140423120552.png七福神選定作品.pdf 直

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20140419161012.jpg

 つづいて特別ゲストのマライ・メントラインさんが登壇。ミステリマガジンの洋書紹介欄、NHKの『テレビでドイツ語』や『まいにちドイツ語』への出演、テキスト掲載のエッセイでもおなじみ。サイト『YG IN JAPAN』ではドイツのミステリーの最新情報をつたえる連載エッセイ「マライ•de•ミステリ」を連載中です。

「ドイツ・ミステリ応援係」をもって任じているマライさんのトークのテーマは《翻訳ミステリー大賞候補作品はドイツでどう評価されているか?》でした。

 マライさんはテンポのいい、ウィットに満ちた語り口で、おもにドイツ・アマゾンのカスタマーレビューを参考に、候補作それぞれがドイツでどのように読まれているのかを紹介してくださいました。日本とおなじように各候補作を「翻訳ミステリー」として読んでいるドイツの読者たちの感想には、わが国に通じるところもあり、また異なるところもあり、なかなか興味深いものでした。

(写真:事務局)

 当日配布したマライさん作成の資料(ドイツミステリ参謀本部プレゼンツ!)の総括部分には、以下のように記載されています。

【総括・そしてドイツ読書文化の特徴など】

  • amazonではとにかくレビュー数が多い! 『シスターズ・ブラザーズ』の8件も、日本では普通だがドイツでは「少なっ!」という印象。
  • 「本は分厚いほど偉い。そしてお買い得である」という妙な通念がある。そういう人が『コリーニ事件』を「薄い!」と酷評したりする。
  • 「あ、俺この風景知ってるよ!」的な旅情系読者がけっこう多い。その再現性が低いと(または見解が違うと)酷評したりする。
  • 『ゴーン・ガール』への反応が最たるものだが、いわゆるジャンルミステリの枠を超えようとする作品への拒絶反応がけっこう目立つ。
  • オーディオブックが普及していることが書物レビューからもうかがえる。売れ筋の作品は書物とCDが同時発売されることも多い。
  • 原題を、ネタバレ的な感じに改題してドイツ語版を出す出版社のセンスのなさは何とかしてほしい。さすがダサ系大国ドイツ!(涙)

 ご興味のある方は、ぜひ以下のリンクから PDFファイルをダウンロードして(拡大表示して)ごらんになってください。

20140423120552.png翻訳ミステリー大賞2014ドイツ陣営資料.pdf 直

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書評七福神選出作品一覧
(2012年11月度〜2013年10月度)

  • 「月度」はおおむねその月の新刊であることを示すが、例外もある。
  • 「月度」の部分は、該当する七福神記事へのリンク。
  • 第五回翻訳ミステリー大賞の対象作品は「奥付=2012年11月1日〜2013年10月30日」のもの。
  • 太字は第五回大賞最終候補作、青字は、第二回読者賞受賞作。
月度 北上次郎 吉野 仁 千街晶之 霜月 蒼 酒井貞道 川出正樹 杉江松恋
2012 11 宙(そら)の地図
(F・J・パルマ)
宙(そら)の地図
(F・J・パルマ)
葡萄色の死 警察署長ブルーノ(M・ウォーカー) 2666
(R・ボラーニョ)
葡萄色の死 警察署長ブルーノ(M・ウォーカー) 世界が終わるわけではなく(K・アトキンソン) 祖母の手帖
(M・アグス)
2012 12 葡萄色の死 警察署長ブルーノ(M・ウォーカー) 喪失
(M・ヘイダー)
喪失
(M・ヘイダー)
喪失
(M・ヘイダー)
喪失
(M・ヘイダー)
終わりの感覚
(J・バーンズ)
チェットと消えたゾウの謎(S・クイン)
2013 1 消えゆくものへの怒り
(B・マスターソン)
六人目の少女
(D・カーリッジ)
1922
(S・キング)
アウトロー
(L・チャイルド)
終わりの感覚
(J・バーンズ)
あの夏、エデン・ロードで(G・ジャーキンス) 護りと裏切り
(A・ペリー)
2013 2 ライアンの対価(T・クランシー&M・グリーニー) 遮断地区
(M・ウォルターズ)
遮断地区
(M・ウォルターズ)
護りと裏切り
(A・ペリー)
遮断地区
(M・ウォルターズ)
遮断地区
(M・ウォルターズ)
とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢
(J・C・オーツ)
2013 3 夜に生きる
(D・ルヘイン)
ジャッキー・コーガン
(G・V・ヒギンズ)
青雷の光る秋
(A・クリーヴス)
アイス・ハント
(J・ロリンズ)
ファイナル・ターゲット
(T・ウッド)
マルセロ・イン・ザ・リアルワールド
(F・X・ストーク)
青雷の光る秋
(A・クリーヴス)
2013 4 暗殺者の正義
(M・グリーニー)
暗殺者の正義
(M・グリーニー)
赤く微笑む春
(J・テオリン)
暗殺者の正義
(M・グリーニー)
コリーニ事件
(F・フォン・シーラッハ)
黄金の街
(R・プライス)
神は死んだ
(R・カリー・ジュニア)
2013 5 白雪姫には死んでもらう(R・ノイハウス) シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
白雪姫には死んでもらう(R・ノイハウス) シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
半島の密使
(A・ジョンソン)
シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
2013 6 ジェイコブを守るため
(W・ランデイ)
崩壊家族
(L・バークレイ)
ミステリガール
(D・ゴードン)
GATACA
(F・ティリエ)
チャーチル閣下の秘書
(S・I・マクニール)
ミステリガール
(D・ゴードン)
ミステリガール
(D・ゴードン)
2013 7 緑衣の女
(A・インドリダソン)
ジェイコブを守るため
(W・ランデイ)
消滅した国の刑事(V・フライシュハウアー) チャイルド・オブ・ゴッド(C・マッカーシー) チャイルド・オブ・ゴッド(C・マッカーシー) 刑事たちの三日間
(A・グレシアン)
ミスター・ピーナッツ
(A・ロス)
2013 8 ゴッサムの神々
(L・フェイ)
甦ったスパイ
(C・カミング)
刑事コロンボ13の事件簿 黒衣のリハーサル(W・リンク) ドッグ・ファイター
(M・ボジャノウスキ)
ゴッサムの神々
(L・フェイ)
名もなき人たちのテーブル(M・オンダーチェ) ドッグ・ファイター
(M・ボジャノウスキ)
2013 9 氷の娘
(L・レヘトライネン)
11/22/63
(S・キング)
レッド・スパロー
(J・マシューズ)
11/22/63
(S・キング)
レッド・スパロー
(J・マシューズ)
ハンティング
(B・バウアー)
葬送の庭(T・フレンチ)
2013 10 暗殺者の鎮魂
(M・グリーニー)
狼の王子
(C・モルク)
三秒間の死角(ルースルンド&ヘルストレム) 暗殺者の鎮魂
(M・グリーニー)
スノーマン
(J・ネスボ)
三秒間の死角(ルースルンド&ヘルストレム) 三秒間の死角(ルースルンド&ヘルストレム)


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