さわやかな五月晴れの土曜日、翻訳ミステリーお料理の会第10回の調理実習に参加しました。今回のテーマとなる本は、抱腹絶倒の面白さで評判の『ワニの町へ来たスパイ』!(お料理はワニ肉……ではない!!)
今回の料理はワニ肉ではなくて、「チキンフライドステーキ」(でもチキンではなくて牛肉)、「マッシュポテト」、「フライドオクラ」、「バナナプディング」と、アメリカ南部料理フルコース。『ワニの町へ来たスパイ』で、主人公レディングがルイジアナの田舎町に到着ほどなく、個性的な老婦人たちに囲まれて礼拝後にカフェで食べたメニューです。作中にも登場したAC/DCをBGMに調理スタート! 講師は翻訳家の上條ひろみさんです。
最初に作るのは、冷蔵庫で冷やしておかなければならないので、デザートの「バナナプディング」から。カスタードクリームは、グラニュー糖、小麦粉、卵、牛乳などを混ぜて漉し、鍋を中火にかけ、ゆっくり混ぜて作ります。なかなか固まらなくて焦ったりしつつ、次第にとろりとしてきました。バターとバニラエッセンスを加えていい香り~♪ なめらかになったカスタードクリームの粗熱をとっている間に、バナナを輪切りにしたり、グラニュー糖を加えた生クリームを泡だてたりします。ザ・お菓子作りみたいな作業が楽しく、張り切ってホイップホイップ! 材料が揃ったところで、小さめのボウルに、カスタードクリーム、森永ムーンライトビスケット、バナナを順に重ね、これを何度か繰り返して地層を作っていき、最後に生クリームを表面にのせて完成! ラップをかけ、冷蔵庫に寝かせます。
一方で、丸ごとゆでたジャガイモの皮を「熱っ」となりながら剥き、ポテトマッシャーでマッシュマッシュ! どのくらいつぶすか(なめらかにするか、食感を少し残すか)、牛乳でどのくらいゆるめるか、グループごとに好みを相談しながら、バターや塩胡椒も加えて味付けします。
次に取りかかるのは「フライドオクラ」。まずはポリ袋の中に小麦粉、コーンミール、塩、胡椒、ケイジャンシーズニングを入れて混ぜます。ケイジャン料理とは、まさに物語の舞台となったルイジアナ州の郷土料理で、チリなどスパイスが効いているのが特徴だそう。この時点ですでに食欲をそそるよい香りが。そこに、3等分に切って牛乳をまぶしたオクラを投入し、シェイクシェイク!
そのとき、赤々とした牛かたまり肉が登場し、会場がどよめいた。本日のメインディッシュ「チキンフライドステーキ」用のオーストラリア産牛もも肉です。
ひとかたまりが5人分、1人あたり2枚、つまり10枚に切り分けます。贅沢~。そしてポリ袋に入れて、肉叩き(または麺棒、すりこぎなど)でバンバン叩き、薄~く広げるのです。これが面白い! スッキリ! 四方のテーブルから激しく叩く音が鳴り響き、皆さんのストレスがみるみる浄化されていくのが見えた(気がした)。叩くのはストレス発散のためではなく、繊維を切ることで肉がやわらかくなるのだそうです。
薄くなった肉には塩、胡椒、ガーリックパウダーで下味をつけ、粉→牛乳→粉の順にまぶして衣をつけます。この衣がフライドチキン風だから、「チキンフライドステーキ」と呼ばれるんですね~(カントリーフライドステーキという別名もあるとか)。肉につける下味は、オクラのときに使ったケイジャンシーズニングでもいいそうです。それもそそられる。
さて、いよいよ揚げはじめます。フライパンに薄めにオリーブオイルをしいて熱し、オクラを入れます。鮮やかな緑色のオクラに黄色い衣がからみついて、目にも美しく、とてもよい香り。そして牛肉も揚げます。薄くしてあるから、少量の油で揚げられるんですね。揚げ油の音って華やかで気分もアガる! こんがりきれいな色になったら、網にのせて油を切ります。そして肉汁の染み出した油を利用して、さっきの衣用の粉を炒め、少しずつ牛乳を入れて溶いてホワイトグレービーソースを作ります。皿に盛りつけた牛肉とマッシュポテトにソースをかけたら完成!
それぞれ凝った料理で、品数もあるのに、手順がわかりやすく組み立てられていたので、スムーズに出来上がりました。泡だてたり振ったり叩いたりと動的な作業のバリエーションも多く、心地よい充実感もあります。そしてお待ちかねの試食タイムです。チキンフライドステーキは、確かに衣がフライドチキン風なのに、牛肉ならではの旨みでご馳走感満点。そして、オクラがこんなにフライの似合うやつだとは知らなかった! 「ケイジャンシーズニング、うちでも買おうかな」という声が上がっていたのも納得いく絶品です。ホワイトグレービーソースをかけたマッシュポテトがまた良くて、1人あたりジャガイモ1個で「ちょっと多いかな……」と思っていたのが嘘のようにペロリとお腹に収まってしまいました。
バナナプディングは、レディング同様、「生まれてから食べたなかで最高においしい」と感動する味わい! ビスケットがしっとりしてバナナやクリームと一体化しているのです。今回は冷蔵庫に2時間程度だったけど、一晩寝かせるとますますおいしくなるそうなので、家でも試してみたい。
ゲストとしていらした訳者の島村浩子さんが、作中にも登場するルートビアを差し入れしてくださり、皆でちょっとずつ味見をしました。少し薬っぽいにおいが好き嫌い分かれるようですが、慣れればクセになりそう(私は好き派)。『ワニの町へ来たスパイ』のシリーズは、アメリカでは既にシリーズ10作も出ているほどの人気で、2作目の邦訳は今年刊行される予定とのこと。島村さんがちょっとだけお話ししてくださったところでは、展開も期待できるし、出てくる料理もまたおいしそうです! 読むのが待ちきれません~。おいしくて楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。お料理の会の世話人の皆さん、島村浩子さん、ありがとうございました!
ところで、この場を借りてのお知らせで恐縮ですが、「翻訳ミステリーお料理の会」の楽しさに感化され、ムーミンの世界の料理を作ってみたい!という趣旨の「フィリフヨンカお料理クラブ」という会を立ち上げました。6月24日(日)に同じく渋谷で、第1回目を開催予定です。メニューは、ヤンソンさんの誘惑、酢漬けニシンのマスタード風味、ルバーブのキーッセリ(いずれも北欧料理)。会費2000円、定員16名で参加者募集中です。ご興味のある方がいらしたら、 vilijonkkacooking18@gmail.com までお問い合わせください。
翻訳ミステリーお料理の会、世話人一同
石飛千尋(いしとび ちひろ) |
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駆け出し翻訳者。ふだんのご飯はテキトーだけど、時折お菓子を焼いたり、本を見て知らない料理を作ったりしたいという衝動にかられる。訳書はヒーリー『プリンス同盟 プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち』など。 |
◆翻訳ミステリーお料理の会レポート・バックナンバー
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