6月初日だというのにとんでもなく暑い日のとんでもなく暑い昼下り、翻訳ミステリーお料理の会は第2回の調理実習を行いました。

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今回もこんな超絶かわいいレシピカードのお土産つき。制作は宮崎裕子さん

今回のメニューは、ラムチョップのミントソース添え。ラムチョップのほうは、ロアルド・ダールの『あなたに似た人』収録の「おとなしい凶器」から、ミントソースのほうはアンソニー・ホロヴィッツの手になる80年ぶりのホームズ新作『絹の家』から選びました。「おとなしい凶器」には、つけあわせの描写もあります。じゃがいもと缶詰の豆。せっかくなのでそちらも、と欲張りました。じゃがいもはローストで、でも、でも、でも、豆の缶詰ねえ……なんとな〜く、あまりおいしくなさそうな予感。ということで、豆のほうは“豆のサラダ”に変更。「おとなしい凶器」で主人公が料理するのは仔羊の腿肉ですが、主人公のように“立派な腿肉”を焼くには時間が足らなそうなので、これもラムチョップに変更。「おとなしい凶器」にはソースの言及がありません。冷凍していた塊肉をナニしたのちにオーブンで焼く、という描写だけ。味付けはたぶん塩胡椒あたりでしょうか? それではちょいと簡単すぎるのではないか、ということになり、ラム料理の描写によく出てはくるものの、あまり実体の知られていない“ミントソース”なるものをこしらえてみよう、となりました。『絹の家』にも、仔羊の足のミントソース添えが出てくることだし。

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ひとつひとつは小さくて凶器にはならないけれど、集めるとけっこうニクニクしい眺めになりました。

それぞれの作品の訳者である田口俊樹さんと駒月雅子さんをゲストにお迎えし、今回も参加者のみなさんにはくじ引きで各調理台に分かれていただき、手順のおおまかな説明を聞いていただいたのち、実習スタートです。

まずはラム肉に下味をつけて、じゃがいもの下茹でから。そのあいだに豆サラダのドレッシングを混ぜて豆をあえ……おや、まあ、みなさん、手際のいいこと。あいまに、超レアと前評判の高かったエプロン姿の田口俊樹さんと記念撮影をする光景もちらほら。じゃがいもにあらかた火が通り、下味をつけてオーブンに収めたら、ミントソース作りに取りかかります。といっても材料をブレンダーに入れて、がががーっと一気にまわすだけ。それと平行していよいよラム肉を焼きにかかります。ラムは火を通しすぎるとぱさぱさになるので、焼き加減に注意。最後は余熱を利用してフライパンに蓋をして蒸すようにして仕上げます。

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いちばんの難関は実はじゃがいも。いちばん時間がかかります

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でも、茹でて下味をつけてオーブンで焼いたじゃがいもは絶品

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ミントソースはブレンダーで一気に!

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頃合いをみはからってラム肉を焼きます。ラムは火を通しすぎないように、でも赤いところも残らないように……慎重に

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田口俊樹氏、ラム肉を焼く

てきぱきと進める参加者のみなさんのおかげで、予定時刻よりもだいぶ早くに完成に漕ぎつけました。

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完成!

ラム肉が冷めないうちに、試食に移ります。食べながら、ゲストのおふたりからはそれぞれの作品の読みどころや魅力について、お話をうかがいました。「ダールの魅力は、にわか成金を揶揄する“毒”にあるけれど、にわか成金を“セレブ”とか言ってもてはやす今はその毒は伝わりにくいのかもしれない」と田口俊樹さん。「ホロヴィッツはホームズ物語の精神を尊重するため十箇条のルールを自分に課して、そのうちに同性愛を持ち込まないとあるけれど、はっきり言って『絹の家』の読みどころは“萌え”」と駒月雅子さん。訳者ならではの鋭く明快な分析に、既読の参加者はもちろん、未読の方々もうなずくことしきり。さらに話題はメニューのことに。以前にイギリスでミントソースと遭遇して、あまりの不思議さに絶句した、という参加者の方から、「今回のソースのほうが断然おいしい」と言っていただいて世話人一同、各自3ミリぐらい鼻が高くなったかも。味の決め手は生姜ではないか、という鋭い分析も。

今回はサプライズを用意していました。「おとなしい凶器」では、主人公が食料雑貨店のサムに勧められてデザートにチーズケーキを買って帰ります。それにならって、森嶋マリさんがこしらえてきてくださったチーズケーキを戴きながら、質問タイムに。そこで、世話人一同が待ちかねていた質問が——「あの、『絹の家』のどこにミントソースが出てくるんでしょう?」。はい、ほんの一瞬ですが、まちがいなく出てきます。某所に乗り込むまえ、田舎の宿屋でホームズとワトスンが腹ごしらえをする場面。種明かしをすると、居並ぶ方々の顔に「なあんだ」と肩すかしを食ったような表情が……すみません、世話人一同のちょっとした悪戯心と思っていただければ。気になる方は、再読を。

その後の片付けも、参加者のみなさんの手際のよさに助けられて、あっという間に終了。

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サプライズのチーズケーキは「おとなしい凶器」のデザートにならって

というわけで、おかげさまを持ちまして、第2回調理実習も、無事に打ち上げることができました。今回は本の話題というよりも食べ物系の話題がいくらか多めの会となりましたが、本の話をしたりなかったみなさま、ラム肉のおいしさとミントソースの物珍しさのせいということで、ご寛恕いただければ。帰り際に何人かの方から、「おいしくてわりと簡単にできるとわかったので、うちでも作ってみます」と言っていただけたのは、何より嬉しいことでした。ミントソースなるもの、挑戦してみてよかったです。

それですっかりハラの坐った世話人一同、“本で読んで名前は知っているけれど、実体は不明”に今後も挑戦してみたいと意欲満々です。食材には旬があるため、定期開催はなかなか難しいところがありますが、なるべく早くまた、みなさまと食にまつわるミステリーとミステリーにまつわる食を探求していければと思っています。詳細が決まりましたら、またこのサイトなどを通じてお知らせをさせていただくつもりですので、しばしお待ちください。

翻訳ミステリーお料理の会、世話人一同

芹澤 恵(せりざわ めぐみ)

翻訳者。〈翻訳ミステリーお料理の会〉世話人。食いしん坊兼呑み助。自称料理好き。ありものでこしらえるシンプルな料理(別名“手抜き”)を得意とする。訳書にウィングフィールド『冬のフロスト』、ヘインズ『クラッシャーズ/墜落事故調査官』、サーバー『傍迷惑な人々』他。

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