みなさま、こんにちは。

 翻訳ミステリーお料理の会の上條です。

 十一月七日(土)、都内某所にて第五回調理実習がおこなわれました。今回の課題書はジル・チャーチルの主婦探偵ジェーン・シリーズ。メニューは『ゴミと罰』より「みかんドレッシングのにんじんサラダ」と、『豚たちの沈黙』より「マカロニチーズ」です。ジル・チャーチルのもう一つのシリーズ、グレイス&フェイヴァー・シリーズの翻訳者である戸田早紀さんと、ジェーン・シリーズの編集者である東京創元社の宮澤正行氏をゲストに迎え、いつものようにおいしく楽しくなごやかな会となりました。講師は、食べるのは好きだけど料理はそれなりのわたくし上條ということで、レシピは貝谷郁子さんの『ミステリーからひと皿』『料理で読むミステリー』を参考にさせていただきました。

 ところで、今回の割引対象は愛媛県出身者。なんとジェーン・シリーズを故浅羽莢子さんから引き継いで訳していらっしゃる新谷寿美香さんは愛媛県のご出身だそうです。残念ながら今回はご出席いただけなかったのですが、伯母さまがみかん農家に嫁がれているそうで、小中学校時代はなぜか毎週水曜日にテトラパック入りのPOMジュースが配られていたなど、愛媛みかん情報を寄せてくださいました。噂のみかんジュースが出る蛇口というのは、昔はなかったけど、今は場所・曜日限定で存在するそうです(!)。

 今回使うみかんジュースはPOMジュース(すみません、告知文では「PON」になっていたと思います。正しくは「POM」です)で無問題だと思っていたのですが、POMジュースって、オレンジと温州みかんのブレンドなんですよ。なんとなく温州みかん100パーセントだと思ってたけど。ちなみに原文は「tangerine」で、『ジーニアス英和大辞典』によると、「タンジェリンオレンジ(北アフリカ原産のミカン)」。「温州みかん」ではないけど、「日本の温州みかんに似ている」と書かれている辞書もあるからいいよね。

 で、まずはそのみかんジュースを使うにんじんサラダから。ドレッシングにみかんジュースを使うのですが、ちょうどみかんが出回っている季節なので、今回は生のみかんで生絞り果汁を作成して使いました(もちろんPOMジュースでもおいしくできます)。

 もうひとつのポイントは薄すぎず厚すぎない輪切りにしたニンジンを蒸すこと。にんじんサラダというと千切りにすることが多いので、みなさん意外だったようです。でも、シェリイがジェーンにリクエストした「人参サラダ」はこのスタイル。「固くない程度に蒸」したにんじんに、「紙のように薄く切」った玉ねぎとドレッシングを加えて混ぜ、冷蔵庫で冷やします(「」内は浅羽訳)。

 にんじんサラダを冷やしているあいだにマカロニチーズを作ります。

 むずかしいのはやっぱりホワイトソース作り。講師は火が弱すぎてシャバシャバ状態がつづき、あせって火を強めたら今度は一気に固まって、世話人ズのナイスフォローで事なきを得るという、講師にあるまじき失態を演じましたが、ホワイトソースは普通においしそうに出来あがったので、バレなかったもよう。みなさんは上手に作っていらっしゃいました。これさえできればあとはゆでたマカロニとチーズを加えてオーブンで焼くだけ。トッピングのパン粉がこんがり焼けて、バターとチーズの香りが漂い、幸せな気分になります。

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こんがりおいしそうなマカロニチーズの完成。

 そして今回もいらっしゃいましたよ、「残った食材でもう一品」チームが。ホワイトソースで残った牛乳でミルクスープ! 今回ダシに使えるようなものは何もないはずなのにと思ったら、なんとサラダに使った野菜のあまりでダシをとったとか。ううむ、調理実習は毎回勉強になります。

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カフェごはん風に盛りつけ。

 料理完成後は楽しい試食タイム。

 クリーミーなチーズの香りを楽しめるマカロニチーズと、蒸したにんじんの甘味とみかん果汁のさわやかさがマッチしたにんじんサラダ、どちらも大成功で、おいしくいただきました。

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完成品、課題書、特製レシピとともにたたずむのは、

特別参加の東京創元社PR担当のくらり氏(ウサギになりたい黒猫さん)。

 にんじんサラダにはトッピングとしてレーズンと刻んだクルミをご用意。ほのかな甘味と歯ごたえが加わると、またちがった味わいに。時間がたつと味がしみて、さらにおいしくなるサラダです。

 今回はシンプルにエルボーマカロニとチェダーチーズとパルメザンチーズで作ったマカロニチーズは、家庭によっていろいろな味があるらしく、バリー・ライガの『さよならシリアルキラー』では、ファルファッレとガーリックブレッドのパン粉を使っていましたっけ。サマンサ・ヘイズの『ユー・アー・マイン』では箱入りのインスタントを使ったんじゃないかな、あの人ホワイトソース作れなさそうだし(どの口が言う)。

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K社の箱入りインスタント・マカロニチーズ。

厚紙製の箱のなかに直にマカロニがはいっていてビビる。色はオレンジ色。

 お肉がないのでもの足りないという声があがるかなとも思いましたが、これまたシンプルなにんじんサラダと合わせてもけっこうなボリュームで、かなりお腹いっぱいに。ちなみに『豚たちの沈黙』に登場したジェフリイ家のメニューはハンバーグ、マカロニチーズ、とうもろこし、サラダ。食べ盛りの子供たちがいるジェフリイ家では、マカロニチーズはサイドディッシュ的な料理なのね。

 そして今回も、わが「お料理の会」の、いや翻訳界きってのお菓子名人、森嶋マリさんからデザートのプレゼントが! わーい! アメリカではポピュラーなお菓子「レモンスクエアケーキ」です。さわやかな酸味とクッキー生地の歯ごたえがたまらないおいしいデザートの登場で、幸せ気分MAXに。ほんとうにおいしくて、「レシピを教えて!」という参加者続出でした。そんなお菓子名人・森嶋マリさんのブログはこちら(http://yumsweets.blog.fc2.com)。

 ジェーン・ジェフリイ・シリーズの魅力はいろいろあるけど、宮澤氏によると、「お隣にシェリイのようななんでもできて気さくな親友が住んでること」という意見が多いらしい。まるっと同意です! シェリイのようなママ友がいたらいいよね。あと、一作目のころは子供のお迎え当番とか、いかにもアメリカ郊外の暮らしっぽくて珍しかったけど、今は日本でもあるとか(そうなの?)。また、このシリーズの特徴でもあるタイトル(著名作品のパロディ)、初期の邦題は浅羽さんが考えられたものだそうです。

 戸田さんが翻訳していらっしゃるグレイス&フェイヴァー・シリーズは、世界恐慌時代のニューヨーク州の田舎町が舞台。チャラ男の兄としっかり者の妹の対比が楽しい、歴史ものコージーです。こちらのタイトルはスタンダードナンバーをそのまま使っているんですね。

 最後は宮澤氏が「コージーミステリの大定番!(帯より)」である戸田さん訳のシャーロット・マクラウド『おかしな遺産』を、戸田さんがそのほかの訳書としてヴァージル・マーカムの『悪夢はめぐる』を、講師の上條がジョアン・フルークの『レッドベルベット・カップケーキが怯えている』を、森嶋さんがオヴィディア・ユウの『プーアール茶で謎解きを』を、とそれぞれ近刊を紹介&宣伝して、試食タイムはお開きに。そのあと洗い物と片づけをして解散となりました。

 こんな感じで、翻訳ミステリーに登場するお料理を作り、楽しいお話を聞きながら試食をする翻訳ミステリーお料理の会の調理実習。課題書を読まれた方や作品・作者のファンの方はもちろん、読んでいない方でもお料理を通して気軽に翻訳ミステリーに親しんでいただければと思っています。

 そして! このたびメンバーの宮崎裕子さんが、わが会のHPを作ってくれました(http://mysterycooking.jimdo.com/)。こちらにもレポートを掲載していますので、ぜひのぞいてみてくださいね。

 調理実習に参加してくださり、手際の悪い講師にがまんしてくださったみなさま、長いレポートを読んでくださったみなさま、ありがとうございました。次回もおいしく楽しい調理実習を計画中です。みなさまの参加をお待ちしています。

翻訳ミステリーお料理の会、世話人一同

上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、マキナニー〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。ロマンス翻訳ではなぜかハイランダー担。趣味は読書と宝塚観劇。10月30日に〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ最新作『レッドベルベット・カップケーキが怯えている』が出ました。よろしく!

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