第九回翻訳ミステリー大賞 投票者コメントのご紹介・前篇につづいて、第九回翻訳ミステリー大賞の本投票に添えられた翻訳者のみなさまのコメントの一部をご紹介します。
前篇同様、掲載にあたって編集した箇所がありますこと、ご了承ください。作品は得票数順、コメントは投票メール到着順です。
受賞作と最終候補作がとりあげられた「書評七福神今月の一冊」の該当月のリンクも添えました。えりすぐりの5作品を読み巧者の七福神はどんなふうに読んだのか。ぜひリンク先もお読みください。
候補作『ハティの最期の舞台』ミンディ・メヒア/坂本あおい(早川書房)
(9票)
田口俊樹:要は純情田舎娘、悪女未満の自業自得譚なのである。それが読ませる、読ませる。語り手三人全員に共感できた。エンディングも申し分なし。
武藤陽生:5作のいずれが受賞してもおかしくない、傑作ぞろいの年でした。悩みに悩んだ末、一番身につまされた作品を選びました。後半のどんでん返しに次ぐどんでん返し。ミステリーとして一級であり、シェイクスピアを思わせる悲劇でもあり、そして何よりも、ラブストーリー。読み手によっていろいろな読み方ができ、また、いろいろな人物に肩入れのできる、懐の深い作品です、自分だったらどうするか、とつねにハラハラしながら読み進めました。ぼくだったら駆け落ちしていたと思います。
白石朗:主人公たちの「痛々しさ」にもかかわらず引きこまれたのは、ずいぶん厚くなっている心の「かさぶた」を、いまさら剥がすような気持ちにさせられたからだと思う。
吉野山早苗:どの作品もすごかったのですが、最後はフロストとハティで迷いに迷いました。
フロストは、じつは3作目以降はずっと積んでいて(ごめんなさい、ごめんなさい)、この機会に一気に読みました。おかげで、短い間に彼の世界にどっぷり浸かるという、しあわせな時間を過ごせました。
ですが、やっぱり今回はハティ推しです。フーダニットはもちろん(真犯人にびっくりしました)、彼女はなぜ殺されることになってしまったのか、その物語を最後まで緊張しながら愉しみました。そして、最近、ヨーロッパ勢に圧されがちなアメリカ発のミステリにもがんばってほしいという思いも込めて。
唐木田みゆき:ひとりの女子高生の恋を通して人生の残酷さを描ききった重量感に一票。
野沢佳織:原題が示すとおり、相手の求める自分を自在に演じ分けられるハティ、上昇志向が強く夢見がちで、見方によっては身勝手で傲慢なハティに、年齢差を忘れてシンクロした。三人がかわるがわる語る構成のおかげで、物語が立体的になり、人物描写も深みを増している。ぐんぐんひきこまれ、訳文の読みやすさも手伝って、一気に読了した。「自分の人生の価値は、そのなかでどんな友を見つけるかで決まる」(p. 448)という一文が、心に残った。それと、「いい人間、祝福される人間になりたいと思うべきかもしれないけど──わたしはそれよりもあなたがほしいの」(p. 259)という、ハティの言葉も。
北村みちよ:ミステリーとして面白いばかりか、物語としても楽しめました。切ないお話でありながら、読後感は爽やかですらあったのですが、それは、ミステリーなのに悪人がひとりも出てこない稀有な作品だったからだと思います。しかも、ラストシーンのすばらしいこと! ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
■『ハティの最期の舞台』→ 2017-09-14 書評七福神の八月度ベスト発表!
候補作『東の果て、夜へ』ビル・ビバリー/熊谷千寿(早川書房)
(9票)
栗木さつき:やられた。しびれた。少年たちと一緒に走り、苦しみ、闘ったあと、読み手はまったくべつの風景を観ることになる。詩情と非情と精密な仕掛けが深い読後感を残す。少し乾いた印象の翻訳にもやられました。
菱山美穂:読後感がよかったです。
小林さゆり:青春小説風のロードノベルで、乾いたタッチが最高にかっこよかった。主人公イーストがどんな大人になっていくのか、続編が楽しみです。
加藤かおり:ストーリー、人物、文体、描写、タイトル、装画……すべてがぴたりと決まった奇跡の一作。深く静かに胸を打たれました。
高橋知子:クライム・ノヴェル、ロード・ノヴェル、成長物語、3つの趣の混ざりぐあいが絶妙。ラストの星が出ている夜空のシーンが印象的でした。普通の少年らしさを失っていない主人公イーストとは異なり、13歳にして殺し屋の弟タイ、怖すぎ。行く末が気になります。
鈴木恵:ナンバーワンを狙うのではなく、ハウス内のストーンをすべて弾き出して、みずからも外へ飛び出していく、そんな剛球でしたね。
■『東の果て、夜へ』→ 2017-10-12 書評七福神の九月度ベスト発表!
候補作『嘘の木』フランシス・ハーディング/児玉敦子(東京創元社)
(7票)
高山真由美:島のスモールタウンに、噓が暗い緑色の霧のようにはびこっていく……といった描写にまず惚れました。「噓の木」はガジュマルみたいなものを想像。
序盤はほんとうにツライのです。ヴィクトリア朝時代の女性たちがどんだけ不自由だったかとかもういいです、いま現在の現実だって充分不自由なんだから何も読書でまで……と思いかける。しかしその時点ですでに作者の術中にはまっているのですよね、それはもうどっぷりと。
「おれ、写真家になりたいんだ」「わたしは博物学者になりたい」といいあう子供たちがせめてまっすぐその夢を追いかけられますように、と思ったらなんだか泣けてしまいました。
伊藤直子:盛りだくさんな内容が完璧にまとめあげられていて、まあ凄かった。
服部理佳:様々なジャンルにまたがっているのに、YA、ファンタジーとしても、ミステリーとしても、中途半端じゃないのがすごい。大事なテーマがぎゅっとつまった作品。
坂田雪子:噓の木を育ててみたい。噓の実を食べてみたい、怖いけれど。
『嘘の木』→ 2017-12-14 書評七福神の十一月度ベスト発表!
【本投票者・全56名、五十音順、敬称略】
《ア行》青木悦子、青木純子、赤塚きょう子、飯干京子、伊藤直子、稲垣みどり、稲村文吾、岩瀬徳子、宇丹貴代実、越前敏弥
《カ行》加賀山卓朗、柿沼瑛子、加藤かおり、門野集、鎌田三平、上條ひろみ、唐木田みゆき、川添節子、喜須海理子、北田絵里子、北村みちよ、国弘喜美代、熊谷千寿、栗木さつき、栗原百代、黒木章人、小林さゆり、駒月雅子
《サ行》坂田雪子、清水裕子、白石朗、白須清美、鈴木恵、関麻衣子、芹澤恵
《タ行》高野優、高橋恭美子、高橋知子、高山真由美、田口俊樹、辻早苗、冨田ひろみ
《ナ行》野沢佳織
《ハ行》服部京子、服部理佳、東野さやか、日暮美月、菱山美穂、不二淑子
《マ行》三角和代、満園真木、南沢篤花、武藤陽生、森嶋マリ
《ヤ行》吉野弘人、吉野山早苗
●第一回大賞受賞作
●第二回大賞受賞作
●第三回大賞受賞作
●第四回大賞受賞作
●第五回大賞受賞作
●第六回大賞受賞作
●第七回大賞受賞作
●第八回大賞受賞作
■第九回翻訳ミステリー大賞関連記事■
・2018.4.21 第九回翻訳ミステリー大賞投票者コメントのご紹介(前篇)
・2018.4.15 【速報】第九回翻訳ミステリー大賞決定!
・2018.4.08 【再掲】第九回翻訳ミステリー大賞本投票のご案内
・2018.4.01 【再掲】第九回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションのご案内
・2018.3.10 第九回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションのご案内
・2018.1.21 第九回翻訳ミステリー大賞本投票のご案内
・2018.1.20【特報】授賞式&コンベンション・ゲスト決定!(事務局)
・2018.1.03 第九回翻訳ミステリー大賞予備投票結果全公開!(その3)
・2018.1.03 第九回翻訳ミステリー大賞予備投票結果全公開!(その2)
・2018.1.02 第九回翻訳ミステリー大賞予備投票結果全公開!(その1)
・2017.12.30 第九回翻訳ミステリー大賞・予選委員会経過報告
・2017.12.29 第九回翻訳ミステリー大賞候補作決定!
・2017.12.01 第九回大賞予備投票御礼
・2017.11.25 【再掲】第九回翻訳ミステリー大賞・予備投票のご案内
・2017.11.12 第九回翻訳ミステリー大賞・予備投票のご案内
・2017.10.22 第九回翻訳ミステリー大賞選出にむけて(事務局)