『緊張』

二文字のタイトルをつけるならまさしくこんな状態でした。

読書会開催日の二日前に念願の満席を果たし、あとは意気揚々とこの日を迎えるはずだったのに、まさか満席確定の直後からこんな言いようのない緊張感に襲われるとは・・・・。

「”やっぱりやめます”という知らせがくるかも」(『撤回』

「し〜〜んとしてしまうのでは」(『沈黙』

「(課題本が)全然面白くなかったと言われたら」(『無念』

「つまんないからもう来ませんと言われたら」(『切腹』

否定的なことばかりがとめどなく頭をよぎります。

今まで行われてきた各地の読書会は100%大成功を納めてきているのに、ここにきて、この札幌で、この私が暗黒の歴史を作ってしまうのではないだろうか!?

そんな私の不安を察してか、当日寄せられたたくさんのツィッターやメールによる各地読書会からの『激励』

なんとありがたいことかと感謝しつつも、情けないほどフワフワした足取りで会場入りしました。

しかし、私は果報者です。お申込み下さった10名の皆様、キャンセルなく全員に無事出席いただきました。

続々と皆様が集まる中、参加者の一人である私の友人が素敵な絽の着物を着て登場すると、なんとなく皆さん萌えるんですね(笑)、場が和みました。和服の効能やこれ如何に!

加えて、お菓子を用意してきて下さった参加者さんもいて世話人としてはもう平身低頭。(ちなみに大変美味しいお菓子でした。ごちそうさまです!)

全員着席したところで早速『出走』と相成りました。簡単に世話人から皆様にお礼を申し上げた後、順次自己紹介です。好きな本やこの会に参加した経緯などを話していただきました。競馬シリーズに関しては初めて読んだという人から全巻読破、さらに何度も再読している人まで幅広い顔ぶれです。

早速再読グループからは、

「実は競馬シリーズは『興奮』が一番好きで・・・」「そうですよね」「いや私も」の声が次々上がり、ダニエル・ローク(『興奮』の主人公)の嫁になる宣言をしたことのある私の頭に一瞬「『興奮』を課題本にすればよかった」という後悔がよぎります。

いやしかし!シッド・ハレーはシリーズを代表する主人公。負けるなシッド!

心の動揺を抑えつつ、自己紹介の合間に、質問などを挟みながらゆるやかにトークの世界へ。

「タキシードじゃなくて”ディナージャケット”というところにイギリスを感じました」

「片手をポケットに入れるというのは日本ではそれだけで“無礼”ですよね。欧米だと比較的許容されるんでしょうか?」

「片手が不自由でも意外となんでもできるよね。運転したり、写真とったり・・・」

“写真”の言葉を皮きりに参加者の中で唯一の大学生さんに「ネガってみたことないでしょ?」と迫ってみたり(見たことあるそうです)、懐かしの“スパイカメラ”について熱く語ってみたりとやや『脱線』

「執拗にシッドが苛められますよね。イギリスの階級社会ってここまでするの〜〜?って思いました」

「しばらく『大穴』って誰を意味するのかわからなかったです。○○な○○の伏線なのかと・・・・」

「”ジゴロ・カノ”って最初は???でした」

「ボイラー室のシーンあたりから一気に面白くなりましたよね」

「女性の家を訪れる時に”トリを下げて”っていうのがピンとこなくて・・・。生きた鶏?焼き鳥か?みたいな」

ここでまたまたやや脱線。特に昔の小説はその当時日本で知られていない食べ物などがあって、珍妙な訳になっていることがあったと皆さんご自身の読書経験からあれやこれやと事例が飛び出しました。

「多分ステーキだと思えるものが”焼肉”になってたことがあります」(全員『驚愕』)などなど、いろいろ上がるも、参加者のほとんどが目を輝かせて大いに頷いたのは2点。

「ビーフ・ジュースってなんだろね〜〜!?ってかマズそ〜〜」と、「(タイトルが)全部二文字だからどれがどれだかわかんない」でした。中には裏表紙に載っているタイトルリストを「縦に読んじゃいました(笑)」という方も。名訳とうたわれた故:菊地光先生の渾身のタイトルも形無し・・・・(『撃沈』

 また、「昔はシッドの妻の気持ちが理解できなかったけど、歳をとると段々わかるようになってきた」という恥ずかしながらの私自身の意見もあれば、かたや「主人公の聖人ぶりが昔は“素敵”って思ったけど、今だと“青いわね〜アンタ”って思う」(『豪胆』)という意見もあり。(歳月というのは読書に多大な影響を及ぼします)

今回は初回ということもあり、コミュニケーション重視でいってみようと考えておりましたので、話が横道にそれるの大いに結構、国内外、ジャンルを問わずにとにかく思ってることをたくさん話していただきました。

最初のうちこそやや大人しい雰囲気だったものの、時間が経つにつれ徐々に『秘密』のベールを脱ぎだした札幌読書会。あれが面白いのこれが好きだのと話しているうちにどんどん調子も上がり、皆さん日頃の本領発揮です。

え?『本領』?どんな風に?

そう、敢えて言うならそこにいたのは「十二人の怒れる読書家」(『誇張』

当代の人気作家であろうが、大手出版社であろうが、「ダメなものはダメ」とバッサリ斬る!

「あのラストはないでしょう」「そもそも設定が変」「○○の作品は△△“だけ”読めばいい」「H文庫、リサイズでブックカバーがかけられない」(笑)

止まらない、全く止まらない・・・・・。まるで騎手を振り落として柵の外まで駆けだした馬の如し(『落馬』

どうぞ誤解をなさらないで下さい。

札幌読書会参加者、こき下ろすのだけが趣味の鼻持ちならない人なのではありません。

そこにあるのは読書に対する真の愛情。誉めるだけではないのです。はっきり「ダメ」と言うことができるのが愛の証。まして12人も同好者が集まれば、どうしてその溢れる気持ちを抑えることができましょうぞ。

しかも常々一人の胸にしまっておいたことを、この日はすべて吐き出して、尚且つ「言えてる〜〜〜!」と言ってくれる賛同者がいるのです。こんなに気持ちのいいことはない。

もう一つ誤解のないよう申し上げると、だからといって他の人の意見を否定するようなことはありません。

「あの本のどこがいいの?」という人がいて、「これこれこういうところっていいと思いました」という人がいる。すると、「あ〜〜それは確かに」と率直に認め合う。

言うこと言いますが、聞くこと聞きます。すべては貪欲に読書を楽しもうとする姿勢の現れ。

さすがは第1回目の開催に手を挙げた方々だけあります。それはもう、本を読むのが好きでたまらないという

オーラがバンバンでてました。

終了時間を迎えた頃には完全に脳内麻薬がでてお祭り状態。もしかしたら皆さん楽しんでもらえたのかも・・・とほんの少しの手応えを感じつつ、二次会のお返事を保留されていた方達に「いかがですか?」とお誘いしたら、皆さん元気よく「行きます!」と挙手で答えて下さいました。おー!ノリノリ!この時は腰から力が抜けそうなくらい嬉しかったです。

こうして皆々様の心配と期待の中、第1回札幌読書会は無事に終了しました。

支えて下さった翻訳ミステリー大賞シンジケート事務局様、先行する各地読書会の世話人の皆様、本当にありがとうございました。元気(やや元気良すぎ?)に誕生した札幌読書会。北海道の大自然に相応しい、大らかでのんびりしていて、誰でもいつでも楽しめる会に育っていけるよう頑張ります。どうぞこれからもご助力下さい。

拙いレポートはこの辺で終わらせていただきますが、最後に1つお遊びを。

ミステリーファンの方々なら途中で「来るな!?」と感づかれたはず。では質問です。

さて、レポートの中にあった『』の漢字二文字。この中で本当に競馬シリーズに出てくるタイトルはどれでしょう?『興奮』『大穴』を除く)

※ 興奮のるつぼと化した二次会の模様は、札幌読書会のブログhttp://justforkicks.blog.fc2.com/にて

札幌読書会 畠山志津佳

当日配布した資料の一部です。ダウンロードはこちら↓からどうぞ。

競馬シリーズ タイトルと最初の1行(全4ページ).pdf 直

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