彼女と猫とハンマーは家に帰ったのか!?
秋の読書会の話を書こうと思っていつの間にか冬になっているような気がしますが、北海道だけでしょうか。
課題図書は『彼女が家に帰るまで』(ローリー・ロイ著)。
田口俊樹訳しばりという一味違う課題本バトルを勝ち抜いた本です。
札幌読書会ではテーブル名に課題図書にちなんだネーミングをすることがしばしばあり、今回もその流れに。読書会前の世話人の相談しようそうしようタイムです。
「作中ででてきた“ピエロギ”、“ダンプリング”、“肉詰めピーマン”はどうでしょう」
「最後は却下ね」「なぜ?」「イ○ンの火曜市みたいだもん」
読書会のテーブルに「肉詰めピーマン398円」があったらびっくりします。
いろいろ考えて「ピエロギ」「キャセロール」「バナナブレッド」に決定です。
今回は事前に田口俊樹先生、不二淑子先生の翻訳者お二人が参加者からの色々な質問に答えてくださいました。なかなか聞けないありのままの裏話的な内容を出席者一同楽しく拝読しました。ありがとうございます。
テーブルごとに分かれて感想を話した後に、各チームで出た話題をみんなで振り返ります。
まずはキャセロール・チームから。
食べ物にちなんだチーム名にもかかわらず
「食べ物がおいしそうではない」
さらに
「苦手な作風、こういう機会がないと読まない」
「もやミス」
「わかりにくい」
作品さながらどんよりした感想です。
さらに女性が出てくる話ならではの感想が続きます。
「昼メロのモノローグみたい。時間があると変な妄想をしてしまう」
「悲しい。だんなさんときちんと話をしていれば……」
「女子力を否定しはじめた世代の話。でも女性力にすがって生きていく」
「昔のムラ社会のよう」
「(小説の舞台となっているアメリカの)50年代が日本の70年代と重なる」
「光が強すぎて影が濃い」
などなどそろりそろりと核心に迫っていきます。
しかしこんな意見も。
「そもそも事件は解決していないのでは!?」
……どうなのでしょう。
さらにこんな意見も。
「ハンマーって戻ってきたんだっけ!?」
なんと人だけではなく小道具にまで言及が。
ハンマーが家に帰るまで。
ぜひみなさんもこの本を読んでハンマーが家に帰ったか調べてみるのはいかがでしょうか(←主題では全然ありません)
さてバナナブレッド・チームはどうでしょうか。
さらにトークもヒートアップ! こんがりと焼き上がってもくもくしています。
「帯にだまされた!」(これはキャセロール・チームでもありました)
「こんな町内会いや」
「○○(登場人物の一人)はどうなったの?」「……きちんと書いていないのでは」
「何もかもハッキリしない」
「本当に解決したとは思えない」
「女性キャラが多いのに感情移入できない」
「猫は見つかったの?」
……こんどは「猫が家に帰るまで」でしょうか。
食べ物や洋服の描写を楽しみにしていたという意見もありました。
さらに、ピエロギ・チームでも。
「誰が何をしたの?」
「ミステリー? サスペンス?」
「もやもや。思わせぶり。煮え切らない」
「視点がころころ変わって大変」
ここでも、もやもやに包まれています。
もっとも「〈三丁目の夕日〉を思い出す」というノスタルジックな意見があったり、「双子がいるから読み続けられた」「謎ではなく人間模様を描いている」という意見や個々の女性登場人物についても感想がありました。
しかしこのもやもや感にやられたのかこんな意見も。
「そもそも犯人って誰でしたっけ?」
……えええ!!
驚きの意見です。
しかしここでも「○○だ」「いやはっきりとは書かれていないのでは」と意見が割れることに。そこも謎になるとは! おそるべきミステリーです。
そしてこのあとで世話人のE氏からひとつのなぞ解きが語られ「おお!名探偵登場か!」となりましたが「……と海外のサイトに書いてありました」というオチが。
これはなかなか見事な推理でしたので興味ある方は検索してみてください。
このあと、田口俊樹先生訳で不二淑子先生が協力された『ジャングル・ブック』と『コンカッション』の2冊が札幌読書会名物大じゃんけん大会の勝者2名に贈られ盛り上がりました。
恒例の二次会でも本の話は尽きません。
参加された方の中には、「一人で読んでいたらわけがわからないまま、自分だけがこう感じるのだろうかと不安に思ったままになってしまうところだったけれども、読書会で他にも同じことを思っている人がいたり、意見を聞いたりして安心感が生まれました。ハッキリしないことが多いから、読書会には向いている課題書だったと思います」という意見もあり、読書会ならではの楽しみ方を味わえる一冊だったと思います。
50年代のアメリカの光と影が描かれた、女性社会ならではのミステリを堪能しました(もやもやも)。
ぜひ皆様もこの本を手に取ってもやもやしながら謎を解いてみてはどうでしょうか。