『浮気ダメ男に初の司法判断』/翻訳ミステリー新聞(札幌地方版)

【前編(判決文)はこちら】

 2013年5月18日(土)、五月晴れとなったこの日、全国の注目を集めるダメ男裁判が翻訳ミステリー札幌読書会小法廷において開かれた。

 記者のツィッターにも全国から「サビッチは男の中の男、越前さんに期待する!」「名古屋城の金のシャチホコに蝶結びにしてやりたいほどアイツ(=サビッチ)はクズだ」などのメッセージが届いた。

 陪審員の事前アンケートでは「ダメ男で許せない」「ダメ男だが許せる」「ダメ男じゃない」という意見が拮抗しており、裁判の行方が注目された。(※参考:アンケート結果)

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 判決は優しく、且つ厳しいものであったといえよう。意外にも少々の浮気には動じない女性が多かったのは特筆すべき点である。問題は浮気をした後の態度であるかもしれない。曰く———-「潔くせよ」。そんな言外のメッセージを感じたのは記者だけではないだろう。

裁判当日、ラーメン屋をハシゴして気合十分で臨んだ越前敏弥弁護団長の談話

 流血の惨事にもならずどうにか温情判決をゲットしました。しかし懲りないサビッチ氏が20年後に再逮捕され、情状酌量の余地なしと判断されてしまいました。とりあえず「白樺山荘」の味噌ラーメンに大満足です。え?あの茹で卵って2個食べてよかったの?「おひとつどうぞ」って書いてたからてっきり・・・。

モノ言う傍聴人として鋭く切り込んだ高橋恭美子傍聴人代表の談話

 本を読みながらカチン!ときたところに付箋を貼っていたら付箋だらけになってしまって・・・途中からはあまり貼りませんでした。やっぱりこの人はイヤです!でも裁判(読書会)は楽しかったーー♪♪

 裁判ではラスティ・サビッチの人となり以外にも活発な議論があったことを伝えたい。

 まずは本書『推定無罪』が、アメリカの裁判制度や科学捜査についてわかりやすく、且つしっかりと書かれたパイオニア的小説であることへの賛辞が贈られた。しかし、丁々発止のやりとりはエキサイティングである反面、過剰にショーアップされているようなところもあり、誰でも有罪に仕立て上げられてしまうような恐ろしさを感じたという声も複数上がった。

 また本書はリーガル・サスペンスと銘打たれているが、実際の法廷シーンに入るまでには長い経緯があり、前半部に関しては「上質のミステリ」という称賛もあれば、「サビッチの独白が長すぎる」という指摘もあった。

 全てのことが悪い方向に向かっていくサビッチの巻きこまれぶりをみていると、まるでスラップスティック・コメディのようにも読めてくるという意見は非常にユニークな視点だ。

 宣伝で「意外な犯人」と言われすぎたために簡単に犯人の目星がついてしまったという指摘があった。「意外な犯人」「衝撃のラスト」などの宣伝文句は読者の興味をそそるものであるが、適量を誤ると容易にネタバレしてしまうという危険を孕んでいることを業界に突きつけることとなった。

 惜しむらくは本書に「冬」という季節がなかったこと(事件は春に始まり、秋に終わる)への問題提起がなされたが、これについての十分な議論ができなかったことである。ラスティ・サビッチに「冬」を経験させなかった作者の意図が何処にあるのか、今後も本書に対する考察は終わることはない。

 白熱の2時間半の裁判を終え、それでも熱の冷めやらぬ一行は二次会で「美酒鍋」(なんと!銘酒「八海山」と野菜の水分だけで食べる贅沢鍋)をつつきながらも、延々とサビッチについて語りまくっていた。過去の二次会では課題本を離れてさまざまな話が展開されるのが常であった。こんなに1冊の本の話で終始するというのは非常に稀有なことである。『推定無罪』は、そしてラスティ・サビッチは読者がついつい何時間でも語ってしまう、人の心を捉えて離さない魔力があるのかもしれない。

 話は続編の『無罪』にも及んだ。未読の方もいたので突っ込んだ話は避けたが、とりあえずまとめると「アンナは気持ち悪い」

 そんなわけで、今回は「ダメ男」であったが、将来の課題本候補として「許せない女がでてくる本」というリクエストがあがった。「ダメ男裁判」においては弁護側が情状酌量を得んがために必死になればなるほど、だんだん身につまされて語尾が消えていくという「自信喪失ループ」に陥っていたが、被告が女性の場合にはどのような議論になるのか大いに楽しみである。

 ちなみに二次会が始まって間もなくの頃には、「越前敏弥、札幌で苛められて号泣」の報を待ちわびた名古屋読書会から電話で問い合わせがあったことを記しておこう。

 結果的に今回の判決は、弁護側にとって苦いものとなった。弁護側は即日控訴をするであろうと思われていたが、肝心の弁護団が三次会のジャズ喫茶で“お目々パッチリ可愛い子ちゃんウェイトレス”のスマイルに悩殺され、控訴手続きを忘れて帰京してしまった。まぁ、この程度でいいのかもしれない・・・・。

 翻訳ミステリー新聞札幌支社 担当 H

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 長々としたレポートにお付き合い下さいましてありがとうございました。

 最近ではすっかり「札幌遠征」が当たり前のようになってきて、正直驚いております。

今回は越前敏弥さん、高橋恭美子さん、文藝春秋担当編集者N氏という豪華ゲストに加え、東京、旭川、室蘭からも参加して下さった方がいて、お迎えする私たちも嬉しい限りでした。

 読書会のついでに観光なのか、観光の合間に読書会なのかよくわかりませんが(笑)、どちらでも大差はありません!心ゆくまで本の話をして、美味しいものを食べて、雄大な風景を堪能していって下さい。これからも新たな出会いがあることを祈って、北の大地でお待ち申し上げております。

 そして次回以降の予告です。

●夏のプチ会は7/27(土)

 題して『乱歩夜話』。乱歩の命日の前夜祭です。特に課題は決めません。ひたすら「私の乱歩」について語り合いましょう。

 開催1カ月くらい前に札幌読書会の専用ブログhttp://justforkicks.blog.fc2.com/ とツィッターで募集を開始します。お楽しみに♪

●次回の読書会は8/24(土)

 課題本は『私が、生きる肌』(ィテエリー・ジョンケ著 平岡敦訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 『蜘蛛の微笑』改題) です。

 非英語圏の作品から選ぼう!とリクエストを募り、多数決で『青い脂』を僅差で破って本書が選ばれました。上質の、そして倒錯(!)のフレンチ・ミステリです。映画も必見!

●そして次々回は11/16(土)の予定です

 課題本は『羊たちの沈黙(上下)』ト(マス・ハリス著 高見浩訳 新潮文庫)に決定。

 キターーッ!レクター博士です、クラリスです、羊です!ん?羊・・・?札幌で羊?ハイ、ご期待通りです。二次会はジンギスカンです(なぜ食べることばかり先に決まる!?)

 既読の方も多いと思いますが、今回は新訳を中心にしたいと考えています。旧訳で既読の方は新訳と読み比べしてみるのも一つの楽しみ方かもしれません。これまたもちろん映画も必見!

●道内各地での読書会計画中

 道内各地からの参加者が増えるにつれ、我々世話人の風呂敷もサイズが大きくなってきました。ぜひとも札幌以外の場所で読書会を開きたいですね。札幌のメンバーもノリノリだったりしますので、ひょっとすると「道内出張読書会 IN ○○」みたいなことができるんじゃないかと思っているところです。

 現在のところ候補地は旭川・帯広・室蘭・函館。「それなら参加してみたい!」と思う方がいらっしゃいましたら、 sapporo.readingparty@gmail.com (札幌読書会世話人:畠山)までご連絡下さい。

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