「今の翻訳ミステリー大賞シンジケートは、過去の名作についての言及が少ない!」ーーそんなことをお思いの方はいらっしゃいませんか?

そういう方向けの連載が今回から月イチで始まります。犯罪小説が大好きでしかたがないという小野家由佳氏が、偏愛する作家・作品について思いの丈をぶつけるコラムです。どうぞご期待ください。(事務局・杉江)

 

 去る1月18、19日に当欄「乱読クライム・ノヴェル」が連載4周年を迎えたのを記念して、過去の回をキャッチコピーで振り返る企画をお届けしました。 その際にtwitter上で実施した、どの作品を読みたくなったか、のアンケートにご協力いただいた皆様、誠にありがとうございます。その結果を集計しましたので、順位をご報告します。

 アンケートは4作ごとのブロックで行いましたので、そのブロックに入った票数×個々の作品が占めたパーセンテージでポイントを出しております。それではご覧ください。ご投票いただいた作品は何位になったでしょうか。本日はまず、下位の作品から。

47位:4ポイント

その33:ウィット・マスタースン『黒い罠』

「個人と社会のどちらが裁くべきか。警察小説の名手が描く新旧の価値観のぶつかりあい」

その40:ダグラス・フェアベアン『銃撃!』

「たった一発の銃撃で文字通り引き金が引かれたのは、誇りを賭けた本物の戦争ごっこ」

45 位:5ポイント

その10:トニー・ケンリック『俺たちには今日がある』

「面白うてやがて哀しき。今日を生きるあなたの心を震わせるクライムコメディ!」

その43:パトリック・クェンティン『愚かものの失楽園』

暴かれるのはうしろめたい人間たちの不誠実さ。臓腑を抉られるようなサスペンス

43位:6ポイント

その19:チャールズ・ボーグマン「ミスター・バンジョー」

「この一編だけで作者のことを忘れ難く思わせる、少年と老芸人の触れ合いを描く珠玉の短編」

その32:ハーバート・ブリーン『真実の問題』

「真実を伝えるか、それとも隠し通すか。青年の上にのしかかる問題は単純故に難問だ」

39位:8ポイント

その21:ジョージ・V・ヒギンズ『エディ・コイルの友人たち』

「エディ・コイルには、友人なんていやしない。噂話の好きな悪党どもの群像劇」

その24:ライオネル・ホワイト『逃走と死と』

「破滅に向けて真っ直ぐ突っ走る、贅肉一ミリグラムもない至高のケイパー小説」

その45:リチャード・ジェサップ『摩天楼の身代金』

「破天荒、しかし精緻な超高層ビル襲撃作戦は今なお読者を驚倒させる。これぞATB」

その46:A・D・G『病める巨犬たちの夜』

「その夜、〈おれたち〉が抱えていたもの全てが噴出する。内容も語り口も異色の暗黒小説」

38位:9ポイント

その25:エヴァン・ハンター『ハナの差』

「今日も明日もハナの差で幸せを逃し続ける主人公。奮闘奔走大暴走のクライムコメディ」

32位:10ポイント

その6:フレドリック・ブラウン『現金を捜せ!』

「カーニバルに隠された現金を巡る、か弱い人間同士の騙し騙されの犯罪劇」

その14:スタンリイ・エリン『断崖』

「少年の成長を語り切る完璧な処女長編。短編の名手エリンは長編の名手でもあるのだ」

その31:ボワロー&ナルスジャック『女魔術師』

「紙上の魔術師コンビが書いた、愛に満ちた世界最高の一大スぺクタル」

その35:エドワード・D・ホック『夜はわが友』

「短編ミステリの形式で書けるものをギュっと詰め込んだホック渾身の一人アンソロジー」

その38:ブライアン・ガーフィールド『砂漠のサバイバル・ゲーム』

「全てを奪われ放り出されたのは砂漠の真ん中。理不尽しかないゲームは既に始まっている」

その44:カート・キャノン『酔いどれ探偵街を行く』

「街には今なお彼を頼る人がいる。命以外の全てを失っても酔いどれ探偵はまだ死ねない」

30位:11ポイント

その13:ジョン・ボール『拳銃をもつジョニー』

「向かう先は遊園地と野球場、拳銃片手に逃げるその少年は名探偵がいないと救われない」

その41:ウィリアム・アイリッシュ『暗闇へのワルツ』

「手に入らないと分かっている幸せを追い求める、名手一流の不安に満ちた恋愛物語」

26位:12ポイント

その7:ミッキー・スピレーン『スピレーン傑作集 狙われた男』

「タフガイ小説のパイオニアが短編で描いたのは、どこかナイーヴな男たちだった」

その9:ジョン・D・マクドナルド『夜の終り』

「全ての終わりから始まる、呪われた男と女たちの運命を異様な迫力で綴る犯罪小説」

その29:ブルーノ・フィッシャー『血まみれの鋏』

「誰よりも身近な存在である彼女のことを何も知らなかったと思い知らされる暗い巡礼の物語」

その37:トマス・ウォルシュ『針の孔』

「小さな街の、小さな家の、小さな男の心の中で展開される途方もない逡巡」

23位:13ポイント

その20:ビル・プロンジーニ『雪に閉ざされた村』

「自身の尊厳を取り戻すため村を襲う男と、守る男。決死の攻防を描くケイパー小説」

その22:ポール・ギャリコ『ズー・ギャング』

「義賊、刑事、そして誰かに踏みにじられた名もなき人々。誰一人置き去りにしない犯罪譚」

その39:ハル・エルスン『アメリカ版 十代の性典』

「不良少年少女の傍にいたからこそ書けた、作り物らしさがどこにもない青春物語」

 

 明日の後編に続きます!

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小野家由佳(おのいえ ゆか)
ミステリーを読む社会人五年生。本格ミステリとハードボイルドとクライムコメディが特に好きです。Twitterアカウントは@timebombbaby